第一章 ◇男の娘 魔法少女になる!

第一話 劇薬



「ここが………」


ネットで見つけたパープルの掲示板。

そこには赤い文字で“エチケットを守れる者にのみ戦う力を”と書かれていたんだ。

ボクはこんな怪しい物に釣られる性格じゃないはずなのにそこかから目が離せなかったんだ。

気付けばボクはその掲示板に示された場所に来ていた。


「うぅ………ここ少しジメジメしてる………」


色とりどりのネオン管で装飾された路地裏。

そこの一番奥のつきあたりに場違いなブラウンの重厚な扉がある。


「“20時、ここに来て下さる貴方様を迎えに参ります”か………」


時計の示す数字は19時58分。

夜にしか外に出られないボクからすれば都合のいい時間だ。


何でって?


ボクは生まれつき全身が白かった。

肌は月明りを反射するような白で髪は雪のような輝きを持つ純白。

瞳はザクロの中身を思わせる紅。


ボクはアルビノだ。

それも重度の。


何の対策もなしに昼間に外に出ればたちまち全身が火傷のように赤くなる。

そのせいで満足に学校にも行けない。

ボクが人と話すのが苦手なのもあって、お母さんや幼馴染しか交流を持つこともない。


けど、知っちゃったんだ。

二人が魔法少女として活動していることを。


「貴方様が今夜の招待客でしたか………」


「―――ッ!?」


音も無く現れた男性に驚く。

どこから来たんだろ?


「そう警戒なさらないでください。今夜は私が安全に貴方様をご案内いたします」


黒い執事服にオールバックにまとめられた黒髪。

顔は外国の血が入っているのか日本人離れしている。

身長はボクの頭いくつか分ぐらい大きい。


如月きさらぎ ゆき様、で間違いありませんね?」


「あっ、はい」


「それでは、中で着替えていただきます。サイズは調節してありますのでご安心を」


ボクは名前も服のサイズも口に出していない。

掲示板を見て、ここに来ただけだ。

どうして分かったんだろう?


「“ここからは人間の世界”………チケットは………持っているようですね。ふふふ、これはこれは、逸材かもしれませんね………」


ボクは執事服の男性が呟いた言葉を聞き取ることが出来なかった。

ブラウンの扉を開き、奥に踏み出した執事服の男性を追ってボクも中に入った。


「あの!どうしてボクの名前を?」


彼はボクの瞳を覗き込むように見ると優しく微笑んだ。


「“選ばれた”皆々様ですから」


「え………」


その言葉と共に一瞬意識が遠のいたと思ったらボクはテーブルについていた。

服装が変わっている。

これって………!


「れ、レディースだ……!」


ボク、男だよ!?

なんでボク、ドレス着せられているの!?

そしてここどこ!?


「いきなり移動させて悪かったな。色々混乱しているだろうが落ち着け。あと服装はこいつの趣味だ」


足を組んで、両手の指先だけを合わせた少年が言った。

髪は漆黒と呼んでもいい黒さで、瞳は妖しく金色に光っていた。

その後ろには先ほどボクを案内?してくれた執事服の男性が控えている。


「は、はい!」


“エチケットを守れる者戦う力を”。

ボクは藁にも縋る思いでここにいるんだ!

失敗は出来ない!


「魔法少女は知っているだろうが、ここはそんな彼女たちを死から遠ざけ陰ながら守る組織だ」


「はい」

あの怪しい掲示板の説明にも書いてあった。


「お前は分かっているだろうが男性は魔法を使えない。使えるのは女性だけだ………普通は、な」


「普通は………」


普通じゃない方法があるってことなのかな?


「あぁ、普通は。どうやらお前にはすでに素質があるみたいだな?」


「素質って何ですか?」


別に魔力なんて感じないし、魔法も使えそうな感じもない。


「まぁな、あっても普通は開花しない。この世界の常識にとらわれているからな」


少年は立ち上がるとボクに近づいて頭を軽く撫でた。


「お前はどうなりたい?」


どうなりたい、難しい質問だと思う。


「ただ強くなりたいでは意味がない。どんなヒーロー像がある?」


「ひ、ヒーロー像ですか?」


「あぁ」


深く心の奥を見透かすように金色の瞳がボクの紅い瞳を貫く。

ボクはどうなりたい?


頭に浮かぶのは二人がボクを置いて行って怪物と戦いに、ボクを守るため戦う姿だ。

だったら………


「お母さんや来未姉くるみねぇを助けられるような!全部早く終わらせてみんなと笑顔でいたいんだ!」


ボクはもっと二人といたい。

置いていかれるのはもう嫌なんだ!


「ふっ、くくく………!気に入ったぞ!」


「坊ちゃん、合格でございますか?」


「あぁ、元からそのつもりだったがな」


「性格がお悪いようで」


「そう言うな。こいつの口から聞きたかっただけだ」


少年と執事服の男性が話している。

ボクは赤くなった顔を自覚しながら声を絞り出す。


「どうしたら、いいですか?」


「どうしたら、か。簡単な話だろう?自分がであると思い込め。それだけでいい。結果はおのずとついてくるものだ」


「思い込む?」


「そうだ。お前には素質がある。理想を現実に持ち込む素質がな」


「理想を現実に持ち込む……」


そんな簡単に言われても………


「常識にとらわれるな。お前には素質があると言っている。これをやるから今日はもう帰れ。あぁ、そうだな。次会ったらきちんとマナーを教えてやる」


「うわっ!……………え?」


白い何かを押し付けられたと思ったらボクは自分の家の前にいた。

服も元に戻っている。

夢だった?

でも、時計は針が進んでいる。

結構時間が経っていたみたいだ。


「ただいま………?」


「雪ちゃん!」


「ん!?」


ボクは来未くるみねぇに抱き着かれる。

優しい柔らかさに包まれてボクは帰ってきたんだと安心した。


「もぉ!どこに行っていたの!?お姉ちゃん心配したんだからね!」


ボクを放すと心配そうな目でボクを見つめる来未くるみ姉。

本当に心配させちゃったみたい。


「ごめんなさい」


「ふふ………しゅんとしてる雪ちゃんもいいわ……えいっ!」


「んっ!?」


ボクは見える景色が回転したと思ったら来未くるみ姉に抱っこされていた。

それもお姫様抱っこで。

恥ずかしいよ!


「やめてよぉ!」


「ん゛っ!………はっ!涙目の雪ちゃん!……劇薬ね」


いつも通り変な来未姉を見ながら、ボクは強く思った。

―――失いたくない………この人だけは絶対に――――と。



「本当にこれでよろしかったのですか?少し早くはないでしょうか?」


執事服の男がカップに紅茶を淹れながら俺に聞く。

分かっているくせに。


「あの純粋さは放っておけば黒く染まる。早いということはない」


「そうですね。マネージャーを付けておきましょう」


まったく………そこまで準備できているなら聞くな………


「あぁ、人員はお前の主導で構わん。出来るだけ優秀なのを頼む」


「畏まりました」


俺はカップに口を付け、すぐに放すのだった。


「熱っ!貴様わざと!」


「さぁ、何のことでしょうか?私は仕事をしただけですよ」


「笑いながら言っても無駄だぞ!」


俺は全力でこいつに抗議するのだった。




―――スーパー後書きタイム―――

コメントや★があると嬉しくなって作者が覚醒します!

お願いします!誤字報告でいいので!

これからもよろしくお願いします!

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