母に意見するなんて
幼かったわたしにとって、母は絶対的な支配者だった。彼女はわたしたちに手を上げることこそなかったが、鬼のような形相で怒鳴り散らす様は恐怖の対象でしかなかった。
小学生の頃、わたしはいくつか習い事をしていたが、それらはいずれも母がどこからか見つけてきたものだった。わたしは母に「この習い事をしたい」とお願いしたこともなければ、「この習い事をやってみる?」と聞かれて断ったこともなかった。
そうなったきっかけは覚えていない。ずっと幼い頃に母に意見して怒られた経験があったのかもしれない。長弟はわたしより遥かに両親に対して反抗的だったから、長弟と母のやり取りを見て「母には意見しない方が良い」と学んでしまったのかもしれない。ただ、そういった記憶は全く残っていないのに、なぜか物心ついた頃には母に意見しない方が良いと知っていた。
そんな状態だったので、自分のキャパを超えるほど習い事が重なってしまったこともあった。小学校中学年くらいだった頃、水曜日は習い事が3つも入っていてとても忙しかった。それにも関わらず、小学校の放課後の時間を使う係を任されそうになって、泣いてしまったことがあった。クラスメイトに自分の状況をきちんと説明すれば配慮してもらえたのかもしれないが、普段母の言いなりになっていて「自分の意見を言う」という経験がなかったので、感情を爆発させて泣くことしかできなかったのだ。
当時のわたしは勉強こそよくできたが、周りの子たちのように自分の意思を示すこともできない、精神的に幼い子どもだったと思う。そしてそれは今も本質的には変わっていない。自分の軸が弱く、他人の望み通りに行動することだけは得意な大人になってしまった。
とても好運な毒親育ちの記憶 鳥兜レイ @TorikabutoRei
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