虐待は遠い世界の話

 わたしはごく普通の公立の小学校に通っていたので、「虐待を受けていたら勇気を出して相談しましょう」といった文言の書かれたカードが学校から配られることもあった。当時のわたしも“虐待”という言葉の意味は(表面的には)理解していたが、自分には全く関係ないことだと思っていたので、そのカードを気に留めることはなかった。“虐待”に対して「なにも悪いことをしていないのに、命に関わるほどの暴力を振るわれる」とか「いつも体中あざだらけになっている」といったイメージを持っていたので、自分が両親から受けている程度のことが虐待だとは夢にも思わなかったのだ。父から暴力を振るわれるのは些細なこととはいえ自分が悪いことをしたからだと思っていたし、家を閉め出されるのは自分がいつまでも泣き叫んでうるさいからだと思っていた。

 その認識は命に関わるような状態になるまで変わることはなく、当然ながら周囲に助けを求めることもなかった。その結果、原因は分からないのに苦しくて仕方がないという状態で長い時間を過ごすことになった。

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