どうせ相談してもまともに取りあってもらえない
両親はわたしや弟たちの言動に目を光らせ、気に入らないことがあればヒステリックに怒鳴ったり暴力を振るったりしていたが、わたしたちが本当に困ったときに相談するとまともに取りあってもらえないことが多かった。ここではそんな出来事を2つ記そうと思う。
わたしが小学生だった頃、弟や近所の子たちと一緒に公園で遊ぶことが多かった。そんなある日、長弟がなにかに刺されて腕に湿疹ができてしまった。彼は家に帰ってそれを母に見せたが、母は「あなたはレイや末弟と違って体が弱いからちょっと刺されたくらいで湿疹ができるんだ」と言って、長弟を心配するどころか彼の体の弱さを責めた。そして「放っておけばいずれ治るだろう」と特に対処もせず放置した。その後長弟の症状はどんどん酷くなり、最初は腕だけにできていた湿疹が全身に広がっていった。幼かったわたしから見ても明らかに異常で、見ているだけでも辛そうだった。しかし、母はそんな長弟を病院に連れていこうともせず、かゆみを我慢する方法を教えていた。長弟はそんな状態でも普通に小学校に通っていたので、湿疹が近所の子たちの目に触れることもあった。わたしや長弟は近所の子から「それは毛虫に刺されたせいだよ」と教えてもらった。
刺されてから何日経っても一向に良くならないのを見て、母は渋々長弟を病院に連れていった。その時の具体的な診断内容は知らないが、やはり毛虫に刺されたことによる皮膚炎だったようで、病院から薬が出された。その薬を使いだすと長弟の症状はみるみる良くなり、数日経つと目で見て分からないくらいになった。
わたしはそんな経緯を見ていて、「最初のひたすらかゆみを我慢させられていた時間はなんだったんだろう」と思った。「最初から病院に行っていればあんなに我慢することはなかったのに」と。
わたしが小学校高学年だった頃、アタマジラミに感染してしまったことがあった。それを最初に指摘してくれたのは小学校の同級生だった。その子はすでにアタマジラミに感染したことがあったようで、わたしの髪の毛に卵が付いているのを見つけて「これはアタマジラミだよ」と教えてくれた。しかし、当時のわたしにはアタマジラミについての知識などなかったし、両親に伝えたところでまともに取りあってもらえないだろうと思ったので、誰にも相談せずしばらく放置することにした。当然ながら放置したところでシラミがいなくなるわけがなく、少しずつ増えていってシラミの成虫を目にする機会も出てきた。
そしてある日、意を決して「アタマジラミに感染したかもしれない」と母に伝えた。その日はちょうど小学校の林間学習から帰ってきた日だった。長期間家から離れたことで両親を恐れる気持ちが薄れていたのかもしれない。しかし母はわたしの髪の毛を少し触って「いつもよりサラサラなくらいだしシラミなんているわけがない」とまともに取りあってくれなかった。いつもよりサラサラだったのは、林間学習中はトリートメントを使っていたからだったので(当時は普段トリートメントを使っていなかった)、シラミが付いているかどうかには関係なかったのだが、母にそう言われてしまうとそれ以上なにも言えなかった。わたし自身も母がそう言うのなら気のせいなのかなと思ってしまった。
もちろん気のせいであるはずはなく、どんどん状況は悪くなっていった。わたしはアタマジラミの感染を確信するようになったが、親を頼れない以上自力でなんとかするしかないと考えた。お風呂に入る時は、日中思い存分掻きむしれないのを取り返すように、気が済むまで頭皮を掻いて念入りに髪の毛を洗い、シラミの駆除を試みた。普段は髪の毛を自然乾燥させていたが、熱でシラミを駆除できないかと考え、時々ドライヤーを使ってみた。母はわたしがドライヤーを使うのが気に食わなかったようで、「ドライヤーなんか使わなくても乾くのになんで使うの!」と言ってきたので、母の目を盗むように時々使う程度だったが。
そんなふうに自力でなんとかしようとした期間が数年続いたが、やはり親に知られないようにお金を使わず怪しまれるような行動もとらず対処するには限界があった。そしてある日、勇気をふり絞ってもう一度両親に訴えてみた。その頃には少し見れば分かるくらいにアタマジラミが増えていたので、両親もようやく事態を把握したようだった。ドラッグストアで薬を買ってきたり目の細かい櫛でわたしの髪の毛を梳かしたりとまともな対処をしてもらえた。ただ、今度はまるで異常者のような扱いだった。アタマジラミ駆除用のシャンプーを使って髪の毛を洗った後、ドライヤーで念入りに髪の毛を乾かしてから父に髪の毛を梳かしてもらっていたのだが、少しでも髪の毛が乾ききっていないと酷く怒られた。さらに髪の毛を梳かした後は両親そろって何時間もかけてシラミを一匹一匹探し出して駆除していた。一人でかゆみと気持ち悪さに耐えるわたしを何年も放置したのにも関わらず、である。
あまりにも長期間放置されていたせいで長弟にも感染してしまっていたが、長弟もまたしばらく両親に相談せず自力で対処しようとしていた。両親のわたしに対する態度をずっとそばで見ていたのだから無理もないことだった。母はそんな長弟に「放っておいたら他の人にもうつるのになんで黙っているの!」と怒っていたが。
どちらの場合も最初に親に相談した時に適切に対処してもらえていればすぐに解決したのに、まともに取りあってもらえなかったがために長期間苦しむ羽目になった。そして「相談してもまともに取りあってもらえない」という実例が増えていくことによって、ますます相談できなくなるという悪循環に陥っていた。これは家庭内に限らず職場などでも起こり得ることだと思うが、幼い子どもと親との間でこのような悪循環に陥ると極めて危険な状態になる可能性がある。幼い子どもの対処能力は低く、自力で対処するのにはどうしても限界があるからだ。最悪の場合、命に関わるような事態になる可能性も考えられる。わたしや弟たちがそのような状態にならなかったのは、「運が良かったから」としか言いようがない。
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