甘える相手は

 わたしが小学校1, 2年生だった時の担任の先生は、50代くらいの男の先生だった。わたしはなぜかその先生のことが大好きで、いつもその先生に甘えてベタベタくっ付いていた。

 それからしばらく経って小学校中学年になった頃、わたしは小学校の体育館で夕方から夜にかけて少林寺拳法を習っていた。その時に送り迎えをしてくれていたのは、一緒に少林寺拳法を習っていた一つ年上の女の子のお母さんだった。わたしは先ほどの担任の先生と同じように、そのお母さんのことが大好きで、行き帰りのたびにくっ付いていた。


 この二つだけを言えば「甘えん坊な女の子だったんだな」と思われそうだけれど、不思議なことに、父や母にはそんなふうに甘えた記憶がほとんどない。普通なら最も身近な大人である両親に真っ先に甘えそうなのに。


 今思えば、当時のわたしはほんの小さな子どもだったけれど、本能的に甘える相手をかぎ分けていたんだと思う。

 あの頃のわたしは両親が自分に危害を加えているだなんて微塵も思っていなかった。そんな発想すらなかった。それでも本能的に感じ取っていた。両親はとても危険で甘える相手ではないと。そして、甘えたい相手に甘えられない寂しさを、まわりの優しい大人で満たしていたんだと思う。

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