三話⑧


 ――あぁ、よかった。

 気がつくと、先輩の心配そうな表情が一番に俺の目に飛び込んできた。

 ここは……、どこだろう? 先ほどまでいた場所ではない。

 首を少し動かし、周りの様子を確かめると、そこはあのなかだまりよりも広く、せせらぎのような水音の聞こえる場所で、奥には、いくつもの卵が置かれた岩づくりの祭壇のようなものが置かれている。

 ……尾形秀治の話で、一つ気になっていたことがある。

 たまむかえの儀式がどれくらいの頻度で行われていたかはっきりとはわからなかったけれど、かなり昔、江戸時代のころからずっとつづけられてきたことは確かだった。

 だとすると、儀式が行われるたびに、尾形家に迎えられるしんらんさまは代替わりをしていることになる。

 ならば、役目をおえたしんらんさまは、いったいどうなるのか。

 その疑問の答えがここにあった。

 洞穴の奥、さらに奥深くには代々のしんらんさまの卵が置かれる場所があった。この山はしんらんさまの聖地であり、また墳墓だったのだ。

「あれ……?」

 ふと、先ほどまで感じていた体の痛みが消えていることに気がついた。驚き、体を起こしてみると、玉森に切られた傷が治っているどころか、その跡すらない。

「俺、死んだんですか」

 自分でも間抜けに思えるようなセリフを口にする。そう、ここは本当にあの洞穴からつながった場所なのだろうか。もしかして、俺は死んで、あの世に来てしまったのかもしれない。

 俺の問いかけに、先輩は小さく首を振った。

「じゃあ、俺、生きてる……?」

 ならば、どうして、さっき負った怪我が痕すらなく治っているのだろう。その答えは、考えずとも、すぐに思いついた。

「まさか……」

 先輩は俺を助けるために、自分の命をくれたのだ。ならば、先輩は……。

 謝ろうとした俺の口に、先輩が唇を重ねた。

 ――気にしないで。

 愕然とする俺に、先輩は笑って言った。

 ――私がこうしたかったんだし、それに開くんは悪くないもの。

 でも、先輩はどうなるんだろう。俺を助けるために、自らの命を犠牲にしたということは……。

 ――心配しないで、大丈夫だよ。

 どうしてそんなことを言うのか、理由がわからずにいる俺に、先輩は再び笑みを見せた。

 ――ただ一つね、お願いしたいことがあるんだけど。

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