一話⑧
「ただいま……」
たまむかえの祭りを経て、家に帰ったときには、夜の十一時近くなっていた。
屋台に並ぶ焼きものやお菓子――代金はすべて尾形家もち――を食べたり、玉森や会場で会ったクラスメイトたちとだべったりしているうちにずいぶんと遅くなっていた。
帰宅の言葉に返事はなく、家のなかはしんと静まり返っている。
ばあちゃんはもう床についてしまったのかと、音を立てないように階段をあがり、自分の部屋まで戻ろうとしたとき、異変に気がついた。
ずっと閉ざされていたましろの部屋の扉が開いている。
「ましろ?」
嫌な胸騒ぎを覚え、ましろの部屋に入った。そのなかを見まわすも、ましろの姿はなく、探しても、家のどこにもいない。
散歩にでも出かけたのか。いや、どうしてかそうは思えない。肌にまとわりつく、粘っこい空気のなか、俺はぼうぜんと立ちつくした。
いったい何があったのか。夏の夜だというのに、汗は引き、背中には寒気すら走っていた。
「ましろ!」
妹の名を大声で呼んでみても、やっぱり返事はない。目まいすら感じるような沈黙に、胃の中身を吐き出しそうになる。
ひきこもりの妹の失踪。
その夜を境に、俺の身のまわりで、おかしな出来事が次々と起こっていって……。
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