幕間2 握手
思ったより小さいな、というのがナジャがニエべスの本体を見たとき思った印象だった。もちろんアバターロボットと同じ程度の大きさなのだから、そこまで意外ではなかったのだが、立ち振る舞いから、もう少し歳を食った人間を想定していた。
「小さいほうが、小回りが利く」
ナジャの見下ろす視線が気になったのか、そんなことを言い出した。このタイミングで言ったから言い訳のように聞こえたが、そんなことはなく実際その通りなのだろう。そしてコロ2にいたころからナジャが疑問に思っていたことの裏付けが取れたように気がした。まだ結論は出てはいないが……
「もしかしてコロ1って深海ポッドがない?」
「なんだそれは?」
ナジャは口を小さく開けて、強く息を吸い込んだ。疑惑が確信に変わって、いやな汗が流れる。震える手を片手で制して、首を軽く振った。
来てよかった。
深海ポッドがないということは、数百年に一回文明がリセットされる土地だということだ。前回の加速は十数年年前。つまり、ニエべスはその後生まれたことになる。そして、自分のように別のコロから移動してきたのでなければ、コロ1生まれの人間は十数歳歳未満ばかりということとになる。
「噂に違わぬ地獄だね……」
「怖気図いたのか?」
「まさか」
サインツ派にとっての一番の罰は服の通報システムをあらかじめ解除させておき、脱出不可能の棺に閉じ込めて飢え死にさせると言う物で、その次が極秘ルートの宇宙へ放り出すと言う物。そしてその次に軽い罰がコロ1に落とすと言うものだった。鉄砲玉の仕事は敵対組織に突っ込んで、玉砕するか逮捕されるまで仕事であり、ノコノコとそのまま戻ってこられるのは困ることである。そのあたりの折半として、ナジャは自らコル1行きに志願したのであった。
コル2は他のコル1を隔離場として使っている。そうナジャが考えたのは教育機関で学んでいた時だった。
そこの住人は日々殺しあっている、巨大な化け物が闊歩していて今日を生きるのが精いっぱいな毎日を送っている。管理されていない生殖主義が横行し、虚無的な性行為が行われている。原子洗浄を行わずに人肉食当たり前のように行われている。等々はっきりとした情報がないので、コロ1を揶揄する噂は数えきれないほどあった。それに対して恵まれた存在として改善を行うべきという考えを持った人も当然のようにいたが、誰もが情報不足で具体的な解決策にたどり着くことがなかった。コロ1への道を知っているのは大抵が悪人だった。そしてナジャもまた悪人だったからこそ辿り着けたのだった。
「それで」とニエべスはせかすように言う。「契約のための食糧は」
「そうだった。はい、こんだけでいいの?」
ナジャは懐から一辺が手のひらの長さほどの立法体サイズの圧縮栄養素を数個取り出した。ニエべスは受け取って頷く。
「これだけあれば数カ月周期は生きていける」
「ってことはその期間だけ案内してくれるんだよね」
「できる限りはな」
この栄養素はコロ1に飛ぶ前のにかき集めたナジャが出せるせい一杯の物だった。それでもコル2の人間の視点から見れば、『数か月分コロ1でボディーガードをしてもらえる』というものの対価としては安上がりすぎた。
「本当にこんなに安くていいの? ちゃんとそれ相当の対価を払わないと、こっちが不安なんだけど」
「私の中では適正だ」
「そう。あのね。実を言うと、私の望みはコル1とコロ2の境界をなくすことなんだ。生体機械の対処を両者で行い、深海ポッドの共有もする。その過程で死人が出るかもしれない。それでも成し遂げたいんだ。私もほら、善人ではないんだけど……子供が大量に死ぬのは嫌なんだ」
ニエべスはそれを聞いて目を少し見開いたが、すぐに目を閉じた。
「契約者の思想には立ち入らない」
「でも協力してくれる?」
「対価次第では」
ナジャは頷き手を差し出した。
「えっとこれは握手と言って」
「それぐらいは知っている」
「そっか」
二人は手を握り合った。
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