第15話 遺書

 澪依華へ


 ママは逃げてばっかりで情けないと思う。澪依華がしっかりし過ぎてるからかな。話さないとしけないことは幾つもあったけど、きっと澪依華は気にしちゃうと思ったから、成人するまで黙ってようかと思ったけど、それまで私は生きてられる精神力を持ってなかったから。ごめんね、ここに書くね。


 一つ目、お金の話。一番にこれを書くのは良くないかなーって思ったけど、現実的にはこれが一番大事だよね。借金は全部返済したから、気にしなくても大丈夫だよ。それでも残ったお金は、机の上に置いておくね。澪依華の嫁入り道具にでも使ってね。


 二つ目、これは家の話。アパートの話ね。大谷さんは私が死ぬまでって言ってたから、澪依華はここを出てかなきゃならないの。だから、一年しかいられないけど、児童養護施設にお世話になるしかないかも。警察の人に相談してみてほしいな。


 三つ目、仕事の話。私昼間は会社で働いてたけど、夜はアパートの下のお店で働いてた。まあ、澪依華も子供じゃないし、知ってたかな?このアパートを借りるときの契約で、お店で働かなくちゃならなかったんだ。それで家賃を払ってたから、私が死んじゃうと、このアパートには住めないってことになる。あの人はそこのお客様で、よくつきまとってきたけど、お断りすると、大家さんに言いつけるとか、澪依華の学校に通報してやるとか、脅してきてたんだ。


 それが怖くなってしまって、精神的に不安定になって、澪依華にも迷惑をかけたよね。本当にごめんね。

 

 四つ目、これは、澪依華の話。今まで黙っててごめんね。うちには、お父さんがいません。というか、薄々気がついていたかもしれないけど、ママは結婚してません。じゃあ、どうして澪依華がいるかっていう話を今からするね。 


 ママのお家は、ママのお父さんが、中規模の会社をやってました。いわゆる、下請けの会社です。でも、ママが高校生の時、経営難になってしましました。会社の為に、借金をしました。幾らか緩和しました。でも、すぐに経営難に戻りました。借金が返せません。すると、借金を貸してくれた、会社の社長が出てきました。その人は、私と引き換えに借金をチャラにする、と言ってきました。家族でとても悩みました。でも、ママは私一人で会社の借金がなくなって、会社が潰れずにすむのならそれでいいと思いました。家族は大反対したけど、それをその人の前で言ってしまったので、取り消せません。そして、ノコノコついて行くと、その人は、ママを愛人にする、と言ってきました。そうして、何ヶ月かそこへ通っていると、妊娠してることがわかりました。家族は中絶するべきか、産むべきか、大喧嘩になりました。ママのお父さんとお母さんは離婚してしまいました。お母さんに引き取られたママは、結局、お腹の子を産むことになりました。そうして、澪依華が生まれました。

という具合。そして、澪依華のお父さんにあたる人の名前が、


三条 宗太郎


っていう人だけど、この人に援助を求めるのはあんまり薦めないかな。ママのこと多分覚えてないし、澪依華のこと認知してないから。


 五つ目、これが一番大事かな。今まで本当にありがとう。ママはいい娘を持ちました。生まれてきてくれて、ありがとう。ママは澪依華が幸せになれるように、天国から願うつもりです。それが、唯一できる償いかな。大好きだよ。


               ママより

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