第14話 不誠実
「…ねぇ、それは、私が、聞いていい話だったの?こんな、1ヶ月前に初めて会ったような人に、話してよかった話なの?私は、多分、めぐみさんには似てないよ。私は、そんな、強くないから。自分勝手な人のことなんてあんまり考えられる余裕はない。そんな私と、めぐみさんを重ねては駄目だよ」
ぽつり、ぽつりと言葉が出てくる。何を喋れば悪い方向へ受け止められないか、考えて言葉を選ぶ。
「…あのさ、聞かれたくない人に、こんな話しないでしょ。というか、俺が聞いてもらいたかったし。逆にごめん、こんな話して。あんまりめぐみのことは気にしないで。…まあ、無理な話だよね。三条家がこんなことをする連中だってこと。だけど、俺だって、これ以上周囲の人を巻き込みたいとは思わないし、大切なものを壊されるのはまっぴらだから。何かしら、手を打つつもりではいるよ」
彼の大切なものの中に、私が入っていたら、なんて思うのは不謹慎だ。それに、彼に伝えなくてはならないことが私はある。
「…ちょっと休憩にしよ。この間、バイト先でもらったお菓子あるから、コーヒー淹れて、食べよ」
話題を変えるように言うと、疲れたような顔で、少し無理をしたようにふっ、と笑った。
「…いいね」
向かい合ったソファーの間にあるテーブルでコーヒーと、パウンドケーキを食べながら、言葉を少しずつまとめる。自分の横には、母の足元にあった封筒。要は遺書だ。…それには、今まで伏せられていた情報が全て書かれていた。お金のこと、家のこと、仕事のこと、…それと、私のこと。
「……あのさ、私も、秀に、話さなきゃならないことがある。…もしかすると、私は、ここにいられなくなるかもだけど、でも、このまま話さないのは、不誠実かなって思うから、聞いてほしいの」
「どういうこと?まあ、澪依華が、話さないといけないって思うなら、全然聞くけど」
手が、震える。話さないと、不誠実である以前に、自分が許せない。逃げるのはもうやめないと。
「私の、話。…私さ、ママが自殺しちゃったって言ったじゃん?ママはね、昼間は会社で働いてたんだけど、夜は、アパートの1階にあったお店で働いてたの。男の人が入るような、お店名だったんだけど、大家さんが持っていたお店で、アパートに住む時に、大家さんが、ママがそこで働くことを条件で、住まわせてもらってたんだ。そこで、1人のお客さんが、ママに執着して、大家さんに苦情を言って追い出すとか、娘の学校に通報してやるとか、脅してきて、…だんだん、ママもおかしくなってきちゃって、腕に…切り傷ができてたの…。やめてって言ったのに、怒ったのに、傷は、増える一方で、それからあまり経たずに、死んじゃったんだけど」
思い出すと、泣きそうになってくるけど、泣いても、どうしようもないから、落ち着かせる為に、深呼吸をする。
「この間、三条の屋敷に行ったでしょ?その時に、見たの」
声が、震える。
「なにを? 」
「その、男。三条の側近だった。ほんとは、あの時、ものすごく、怒ってた。怒りで気がおかしくなりそうだった。殺してやりたいとさえ思った。…そんなの、無理だけどね」
あの時、私を見ても、なにも反応がなかったあの男を見て、こいつさえいなければとどんなに思ったか。どうしてこんなにも平然としていられるのか、不思議で仕方なかった。
「でも、今回話したいのは、その男の話じゃない。今からの話が本題。聞いてくれる? 」
覚悟がきまって、声が自然と低くなった。
「聞かないも何も、それを話したくて、澪依華は嫌なことを思い出してるんでしょ。それを無碍にするつもりはない」
それを聞いて、やっぱこの人でよかったなと思った。大丈夫。私が決めたことだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます