第11話 昔話

 明治時代初期、ある公家の華族の御曹司で心理学者だった男がいた。


 彼は、優秀であったが、人の心を理解できなかった。よって他の者を巻き込んで多くの研究をしたが、それでも、彼は人の心を理解できなかった。そして、彼は一つのことを思いつく。人間の感情の中には幸と不幸がある。不幸になり続ける人間を見たら、自分は人の心を理解できるようになるかもしれない、と。


 その名も、「不幸の檻」実験。


 しかし、一つ問題があった。その実験の被験者がいないことだった。周りの人間は、その話をすると、絶対に嫌だと首を振った。それは、家に古くから仕える部下たちでもだ。途方に暮れかけた時、父親が妾の子供を家に連れてきた。母親はそれから毎日機嫌が悪くなった。子供は男の子だった。自身の子の立場が危うくなると、考えたからだった。彼に何かあった時に、その子供が一族の主となるのも許さなかったらしい。

 子供は毎日、正妻である母親にぶたれても、食事を抜かされても、謝るばかりであった。父親は家庭に無関心であったため、母親は嬉々として虐めた。


 それを見た彼は歓喜した。いい被験者がいる、と。


 まずは、子供をその母親のもとへ連れていった。あらかじめ雇っておいた暴漢に、母親を目の前で殺させた。その後、何年かかけて、その親族を子供の前で殺していった。親族が滅ぶ頃には、子供は大人になっていた。そして、彼はその妾腹の兄弟に、嫁を娶せる。そして、その間に子供が数人できた頃、子供を目の前で殺した。最後の2人になるまで。その後、嫁も殺した。被験者は、精神的に異常をきたした。彼は実験は失敗した、と思った。だから、この研究を続けることにした。1人目の被験者は、失敗なので、処分した。勿論、生き残っている2人の子供の前で。生き残った2人をある程度成長させた後、片方はもう片方の目の前で殺す。そして、生き残った方が大人になると、嫁を娶せる。


 しかし、彼も神ではない。寿命がくる。


 彼は、その研究を息子に受け継ぎ、この結果がわかるまで、続けるように言って死んだ。そして、これを繰り返していった。殺し方もさまざまで、身内に殺させるとか、片方だけ生き残れるようにするとか、とにかく凄惨をきわめた。


 これが未だ現代にも伝わっている。


 その研究者の一族を三条、被験者の一族を小野寺と言った。

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