第10話 結論
魔が差したのは確かだ。殺して欲しいと頼む少女を前に、3年前に死んだ妹、めぐみと重ね合わせたのがいけなかった。髪の長さこそ違ったが、黒髪黒眼に始まり、生写しかと思うくらいにはそっくりだった。自分が汚れ仕事を請け負っていたのは、妹を生かす為だった。妹に絶対知られないように「仕事」をすること。これが妹を生かす条件だった。それが妹に知られ、妹が殺されたのが3年前。めぐみが死ぬくらいなら、自分が死んでしまいたかった。3年前のあの日から、死んだも同然で息をしていた。
だから、澪依華と初めて会った日、あのまま死んでしまおうかと考えていた。血筋を絶やさないことが一族の悲願だが、もうそんなことはどうだってよかった。
しかし、妹とそっくりな少女が自分を殺して欲しいと言う姿を見て、生きることができると言うのに、死にたがっていることに腹が立ったと同時に魔が差した。このまま、不幸の道連れにしてしまえば…と。
そんな俺の考えを知る由もなく、彼女は俺についてきた。ただただ純粋にいい子だった。こんなことに巻き込もうという浅はかな考えが悍ましくなるほどに。日に日に、巻き込んでしまったことを後悔した。俺はまた同じことを繰り返すのだろう。これは奴等にとったら、何もしなくても、俺が自ら不幸への道へ進んでいるように見えるだろう。
「ごめん、澪依華。まあ、謝ってどうにかなるようなことではないけど。…あとで全部話すよ。三条と俺の一族のことも俺のことも」
「…あとで…?って……」
「後に回した方が苦しくなるだろうに。こいつは自ら不幸へ進んでいくな。こちらとしては手間が省けて結構結構。用は済んだ。家まで送ってやる。変に騒ぎを起こされてはたまらんからな」
さっきから、余裕がなくて見ていなかった腕時計を見ると、22時47分を指していて、この組み合わせで疑問を持たれない時間ではなかった。
帰りの車は隣に澪依華がいて、当の澪依華はというと、こちらには見向きもせず、窓の外をずっと眺めて一言も喋らなかった。いつもは返すのも面倒だと思えるくらい喋るのに。
家に着いて、電気をつけるまで一言も発しなかった。連れてきたあの日もそうだったが、今日のはあの時とは違う様子だった。
「…話してくれるんでしょ。あなたのこと。私も話すよ。あなたに隠してたこと全部。…だって、これから一生のお付き合いになるんでしょ。お互いのこと知ってなきゃまずいだろうし」
堰を切ったように一気に喋った。顔は無表情だった。表情豊かな子だと思っていた。案外見ていなかったのかもしれない。恐らく、本来こういう子だ。
「わかったよ。じゃあ、まず一族の話からにしようか」
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