第9話
永魔が殺の元に辿り着くのに、そう時間はかからなかった。
溢れ出る魔力の源泉を辿って歩いていくと、殺はすぐに見つかった。
殺は住宅街から少し離れた丘の上の廃墟にいた。
殺は古びた廃墟の屋根の上にふてぶてしく座っている。
「…よう永魔。思ってたより随分と早かったな。相手を待たせるのは良くないことだからな、他人と関わって生きていく上では大事なことだ。これからも心がけて生きてけよ。」
余裕のある笑みを浮かべて軽快に話しかけてきた。この野郎。ぶっ飛ばしてやりたい。屋根から飛び降り着地した殺に話しかける。
「……端から生かす気がないくせによく言うぜ。兄貴はホント、相手の弱みに漬け込んで言うこと聞かせるのがうまいよな。関係のない一般人を1時間に1人ずつ殺すだなんて、そんなこと言われたら急いでくるに決まってんだろ。まさかとは思うが、まだ誰も殺しちゃいねえよなぁ?」
永魔は額に青筋を浮かせながら殺に凄んだ。
「まあまあ、あんま熱くなるなって。お前は1時間以内についたんだ。自分から条件吹っかけといてそれを反故にする事ぁねえよ。安心しろ。誰1人殺しちゃいない。もう問答はいいだろ。とっとと終わらせよう。」
ヘラヘラしながら殺が指の関節をバキバキと鳴らした。
しかし永魔にはまだどうしても知りたいことがあった。
「…最後に一つ、聞いてもいいか?」
「なんだよ。あんまり長ったらしく喋るようならぶっ殺すぞ。」
「なんで俺を見捨てて死神側についた?隠すことなくちゃんと答えてくれ‼︎」
「ーは?いや、前にも説明したろ。俺はお前を食って永遠の命をーーー」
「……ッッ違えよ‼︎馬鹿か兄貴はっ!!俺は覚えてるんだ‼︎小さいガキの時から兄貴は周りの死神を嫌ってたし、命は限りあるからこそ美しいと…限りある命だからこそ生物は精一杯生きていけるのだと、俺に語ってくれた‼︎あの時の言葉は、偽りじゃないだろ⁉︎なんで今までの信条を捻じ曲げるようなこと言って、昔から嫌いだった死神たちに肩入れして…一体どんな理由があって俺をあんな目に合わせたんだ‼︎」
殺は数秒間上を見つめた後首元をポリポリと掻いて、気怠そうに「あー……」と唸り、何かを思い出したように話し始めた。
「……20年近く生きてれいれば、考え方も変化するさ。生物なんてみんなそんなもんだ。お前も小せえクソガキの頃は自分が最強だと己の力を過信し、危険を顧みず、相手が誰であろうと喧嘩を吹っかけてはボコボコにされてた。でも今はどうだ。歳を重ねるごとに闘争心は薄れ消え失せ、勝てない相手には萎縮しただ縮こまるだけ。昔は食いもんの取り合いでよく喧嘩もしてたが、お前がデカくなってからはそんなことも全くなくなったな。地獄から逃げ出した後のことは知らねえが、お前も短期間のうちに考え方がガラッと変わることもあるだろ?」
確かに永魔はあの事があって以来見知らぬ人に会うことや、大勢の人がいる場所に行くのが怖くなった。今までは誰とでも分け隔てなく接する事ができていたのに、ふとした瞬間に相手が自分を裏切り襲いかかってくるのではないかと言う被害妄想を膨らませてしまうのだ。しかし、殺にも人生観を180°変えてしまうほどの衝撃を与えた出来事があったのだろうか。地獄にいるときに殺に変わった様子はなかったように思う。自分の体験には当てはまるが、殺には当てはまらない…どこか納得しきれない気持ち悪さがあった。
「、、、確かにあるにはあるがーー、兄貴にそんな……」
「お前はあったんだろ。そうだ、お前と同じように俺にも色々あったんだよ。色々な。……これ以上は問答はもういらねえな。構えろ永魔。2ヶ月半ぶりの兄弟喧嘩だ!」
「…まだ納得いく答え聞けてないんだけどな…。2ヶ月半ぶりって久しぶりなのかなんなのかよくわかんねえや。こちとら運動不足なんだ。お手柔らかに頼むよ…」
「こっちも2ヶ月以上お前を探してばっかりで暴れ足りねえんだ!いくぞオラぁあ!一撃でくたばったりすんじゃねえぞ永魔ァ‼︎あいにく手加減できるかは分かんねえがなあ‼︎」
殺が全力で蹴りを放つとき、足が風を切る音が鳴る。
その風を切る音は殺のあまりの脚力に、稲妻が轟くような凄まじい爆音と化す。
地獄の死神たちは、こぞってそれを”雷閃”と呼んだ。
“雷閃”
凄まじい轟音と共に、殺の稲妻のような瞬足の蹴りが永間の鳩尾に炸裂した。
永魔の表情が苦悶に満ちて紫色に染まっていく。しかし、それだけである。
確かに雷閃は炸裂した。炸裂した…が、地獄で放った雷閃とは威力が桁違いだった。
桁違いに、お粗末な威力だった。今までの雷閃なら、永魔は吐瀉物を辺りに撒き散らし情けない声で喚きながらなたうち回るはずだ。
「は…?」
殺は自分の身体を疑った。自分の全力を込めて放った一撃が、永魔に直撃したのに、今までの半分もダメージを残せていない。なぜだ…?永魔のやつが何かしやがったのか…?全く意味がわからない…。唖然とする殺の左頬に、永魔の全力の蹴りがヒットした。不意の攻撃で、思いのほか殺は衝撃を受けたが、
空中を一転二転し、猫のように音も立てず静かに着地した。口の中が鉄の匂いで充満する。俺が怪我をするなんていつぶりだ…?
その様子を見て満足げに笑いながら唾を吐き永魔は言った。
「…ッペっ、今までさんざんやられた分やり返させてもらうからなあ。覚悟しとけ兄貴‼︎」
「…俺に一体何をした…?なんの手品を使って俺の攻撃を弱体化させたんだ?」
「へへ……兄貴が怪我するのを見るなんていつぶりだろうな…俺が兄貴に何かしたわけじゃ無いぜ。兄貴、”天恵”のことは知ってるよな?」
天恵。それは死神が持つ、固有の特殊能力である。この天恵は死神一人ひとりによって異なり、その能力や効果は様々である。
「勿論知ってるぜ。……俺には天恵がねえんだからよ。俺が唯一周りより劣っていることだ。」
「…いいや、兄貴にも天恵はあるぜ。とびきり強いのがな。」
なんだと?俺が…天恵を持ってるだと?
天恵が無いからと周囲の死神に舐められないように、身体を鍛え抜いた。
生まれてから20年近く天恵は発現せず完璧に諦めていた。
「何を根拠にそんなこと言ってんだ?ふざけてるのか?」
「ふざけてなんか無いさ。俺の天恵、”冥府の眼”は相手の天恵を見たり色々できる結構便利な力でな。兄貴の天恵は”黒影”…。一定以下の明るさになると身体能力が向上する、地獄では常時発動の能力だ!」
不死戦争 eima @oneokrock1124
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