泊まり込みレポートと、泉の執筆(1)
旅館の裏手で、芝生に寝転びながら星空を見上げるのは、ここしばらく泉のルーティンとなっている。季節は秋に近付き、夜は長袖でないと肌寒い。
――僕もそろそろ、本腰入れて考えないとなあ。
泉には、山本のSFや金子のホラーのような、特定のジャンルに対するこだわりがない。むしろ、決まったジャンルの隙間を行くような物語が好きだ。映画にはジャンルスイッチムービーというものがあるが、これは限りなく泉の好みに近い。よくあるのは、ミステリーと見せかけてホラー、あるいはその逆だ。
――それにしても、山本も金子もキャラクターが立っていた。僕もこの流れに乗って、キャラクターにこだわってみたい。でも、ただ破天荒なやつを登場させればいいわけじゃないよな。金子が「お化けを出すだけじゃ怖くない」って考えるのと同じで。
強いこだわりがないからこそ、興味の湧く題材であれば、泉は執筆に挑戦することができた。純文学のようなものを書いていたこともあれば、エンターテイメントを書き続けた時期もあった。詩や短歌にも手を出している。しかし、逆を言えば、「興味のない題材では書けない」ということだ。心に引っかかる何かを見つけるまでは、書き始めることができない。
――キャラそのものの魅力も大事だけど、それだけで物語を牽引するのは無理だな。少なくとも僕にとっては。やっぱり、キャラの生きるようなプロットが必要になる。
泉は昔から、物事を分析的に考えるのが好きだった。AだからB、BだからC、故に……。その性質が、彼を文学ではなく理系心理学へと進ませた。そのためか少し考え方が独特な部分がある。たとえば、泉が短歌を詠むようになったきっかけは、ある日突然「AIがこのまま進化を遂げたら、三十一の文字列が解析され尽くして、新しい短歌というものが無くなってしまうのではないか」という不安を覚えたからであった。
――魅力的なキャラに、それを生かすプロット……。どっちも僕の不得手なことじゃん。
ぼりぼりと頭を掻く。少なくとも、ここでこうしていてもいい考えは浮かびそうにない。今までは「書きたい場面が浮かばなければ書かない、浮かべば書く」で通ってきたが、今回ばかりはそうはいかない。仲間の目もあるし、締め切りもある。
――二人に相談したら、なんていうかな?
高校時代までの泉にとって、創作は孤独なものだった。故に気楽だったが、寂しさを覚えなかったと言えば嘘になる。しかし、今はもう一人ではない。よき読者であり、よき創作仲間である二人がいる。創作のことを他人に相談したいと思うなど、今までにはありえなかった。
――相談してみよう。山本と金子に……。
そのまま泉はうたた寝に入ってしまう。
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