プロローグ(4)
「いきなり、学内の創作コンテストに応募しろ、だもんな」
山本がそう言ってコーヒーを飲み干す。泉もうなずく。
「しかも理由が、『最近の応募がつまらない』っていうね」
「それでうちらに声かけるって、人選ミスじゃないかな。まあでも、正直言うと少しわくわくしてる。ちょくちょく小説っぽいもの書いてたし」
金子が甘そうなコーヒーをかき混ぜながら、上目遣いに男どもへ視線を送る。
「それはそうだね。僕も、やってみたい気もするなぁとは…」
「うん。断る理由はないな」
結局のところ、三人とも読むことが根っから好きなのだ。そして、書くことも。
「十月上旬に締め切りだろう? それまでに完成させなくちゃいけないな」
「応募する前に読ませてよね」
「あ、僕もそうしたい」
書き上げたら残りの二人に見せる、ということで話がまとまった。四百字詰め原稿用紙二十枚以上百枚以下。冬に向けた三人の挑戦が始まるのだ。
「よかった。演習のレポートが終わったら、もうこうやって集まらないのかなって思ってたから」
金子の言葉に、山本もうなずく。
「もちろん、泉が迷惑でなければだがな」
「全然、迷惑なんて思ってないよ。こんなに広いところに一人は寂しいから、二人が来てくれてうれしい」
山本が目を細めて「おー」と声を上げた。
「珍しくデレたな。かわいいやつめ」
肩を組んで泉のこめかみをつつく。
「ちょっと二人でいちゃつかないの。で、この後どうする?」
「飯でも行くか?」
山本が窓の外を指さした。初心者マークの小型車が駐車場に止まっている。目にも鮮やかなピンク色だ。
金子がさも重大な発見をしたかのように言う。
「いつも思うけどさ、山本って見た目に似合わずめっちゃかわいい車に乗ってるよね」
「いや、いいだろうが」
わいわい言いながら、三人は旅館の外へと繰り出した。空には入道雲が立ち上り、丘の向こうからは蝉の大合唱が聞こえている。
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