第7話『人が死んだ日に酒を飲むな』

 えっと、別に大した話じゃないんすけど……友達のFってやつとリモートで酒飲んでた時の話です。その日はね、台風が近づいてきていて外出するなって言われてたんですよ。大学も休みになっちゃって。

 なんで、朝大学からのメール見てすぐにFに連絡しました。二人とも酒好きで、酒の入った馬鹿話も大好きだったんでね。

 リモート飲み会ってのは何回かやったことあるんですけど、複数人でやると離しづらくっていけない。隣の人とちょっと話す、みたいなことができなくて全体に声が届くじゃないですか?だからよくなんか言おうとして衝突事故が起きるんですよ。あ、こんな比喩は不謹慎か。

 ま、それはさておき二人ならその辺の心配はない。安心して管巻けるってことで最初は身近な話をして、だんだん脱線して政治、芸能、果ては世界情勢なんかを適当にベラベラとね。

 途中から意識が朦朧としてきますから内容もめちゃくちゃになっていって、Fのやつなんか日本の初代首相が誰だか思い出せない状態で明治維新批判し始めたり、もうめちゃくちゃですよ。でも、それがマジで楽しいんすよね。

 zoomの時間制限がかかる前だったんで4時間くらい飲んだかな〜?ザザー、ザザー、って雨の音が少しづつ小さくなってきて、俺たちの表情もトロンとしてきました。

 で、いーい感じに眠くなってきたところで急に、すっげぇでかい声が聞こえたんですよ。

 はい、とにかくでかい声で、ほとんど聞き取れない。

 もう眠気なんか吹っ飛びますよ。家の外かと思ってドア開けても誰もいねえし。

 で、どっから聞こえてんのかと思ったらパソコンから聞こえてるんですよ。

 なるほどFの野郎完全に悪酔いしてやがるなっておもって、なんのつもりだよって怒ったら「お前こそなんなんだ」って。デケェ声はFの方から聞こえてたわけじゃなかったんです。

 キモいっすよね。

 俺もなんか酔いが覚めちゃって、不気味でしょうがないし景気づけにもういっぱい飲もうとすたんですけど……またすごい声。「ガムアガンガガジャガガガガァ!!」みたいな!アハ、すいません。びっくりしました?

 とにかく咳が混ざったようなめちゃくちゃな発音で、ただなんとなく怒ってるっぽいなってことはわかりました。

 それでなんとか聞き取ろうとして、パソコンにイヤホンつけてもう一回酒に口をつけてみたんですよ。

 したら、「人が死んだ日に酒を飲むなァ!!」って。

 それで思い出しました。隣の部屋の酒飲みジジイそっくりなんです、その声。

 俺は慌てて部屋を出てジジイの部屋のインターホンを押しまくりました。でも反応がない。それで救急と警察を呼んだんですけど……まぁダメでした。俺がくる少し前に亡くなってたらしいです。

 多分あの声は、気づいて欲しかったんじゃないかなぁって思います。その人、一人暮らしでなんかいつも寂しそうでしたし。

 あ、ジジイの死因っすか?噂によると酒の飲み過ぎっす。

 俺も外出れない日だからって酒何本も開けるのは今後やめときます。へへ。

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