第5話『すみません』

 次は僕ですよね。えーっと、これは僕がスーパーマーケットでバイトしてた時の話です。

 スーパーって、安いとこだと特になんですけど、結構民度終わってるっていうか、ヤバい人が集まるんですよね。

 そうそう、コーラを箱で10箱欲しいとか言い出して、店員に倉庫まで取って来させたりね。もう馬鹿ですよ。終わってます。どうせ自分が世界の中心て気分なんでしょうね。あとね、かってにカートの上に置いてある箱持ってくバカ、冷食コーナーに生鮮コーナーの商品戻してくボケ、まぁ色々ですよ。

 おっと脱線。でね?その……あの時も、やばい客かなって思ったんですよ。

 お婆さん、なんですけどね?なんか寝巻きみたいな格好してて、僕の後ろに立ってしきりに何か言ってる。まぁ聞き取れないんですけど無視するのも気の毒で、どうかされたんですか?って言ったんですよ。そしたら、何回も「すみません」って言ってて……なんのこっちゃと思ったら、ドバッと……はい、あの、おもらしですよ。それも下痢です。もう最悪ですよ〜。とりあえず上の人呼ぶために店内通話かけて、雑巾とかお願いして、まぁルール的にその場を離れるなって言われてるんでおばあさんの方に向き直ったら……いないでやんの。

 ため息出ましたね本当。いや、まぁ多少ね?そのお年寄りですから、わからなくなっちゃってるのかなって思って、とりあえず近くにいた後輩を捕まえてうんこの見張りだけさせて、僕はお婆さんを探しました。でも店中探してもいないし、レジカウンターの人たちに聞いても見てないって言う。

 で、結局その日は僕たちでうんこの掃除して……いや、それにしても臭かったですよ……なんか、常識はずれの臭さっていうか……昔遊びに行った田舎で見た肥溜めもあそこまでじゃなかったな。それを拭くわけですからもう惨めなことこの上ない。ちゃんと手袋してマスクしてても臭いし、ぐちゃぐちゃ音がするし、めちゃくちゃ死にたかったです。

 でね、そのしばらくあとにまた同じお婆さんが来たんですよ。で、なんかもごもご言ってる。

 僕はもう漏らされたら敵わんと思って「先日は大丈夫でした?トイレご案内しますよー」って言ったら、こくん、ってうなづいたんですね。それで、トイレまで連れて行ったんですけど……途中でまたドバッと……。もう最悪ですよ。よろよろ歩きで心配だと思って背中に手を当ててたんですけど……そのせいで距離感近かったから……バイト用の靴にかかっちゃったんですよ。で、とりあえず近くにいたレジの人にお願いして雑巾とか用意して〜、てまぁ前回と同じ流れなんですけど、また目を離した好きにおばあさんがいない。僕はほら、靴にうんこついてるから動き回れないでしょ?他の店員に探してもらいましたけど、やっぱりどこにもいない。もう、その日は店長にお願いして早退けさせてもらいましたね。靴も捨てました。掃除だけは……まぁトイレ用の長靴履いて付き合いましたけど、もうほんっとうに惨めでした。

 で、それからしばらくバイトを休ませてもらったんです。精神的なこともあったし、新しい靴が届くまで待たなきゃでしたし。

 で、まぁせっかく時間も空いたしと思って、いつもバイトしてる時間にコンビニに雑誌買いに行ったんですよ。そしたらまたあのおばあさん。もう僕はすぐにおばあさんの手を引いて、コンビニのトイレの前まで連れて行きましたね。それで、「はい!トイレでしょ!」って言ったんです。そしたら……女子トイレのドアを開けようと全然しなくて……そのまま……ドバッと。しかも、しかもですよ?そのお婆さん、なんか僕の体に腰を押し付けてきて……ああ思い出したくない。お気に入りでいい感じに色落ちしてたジーンズ捨てる羽目になりましたよ。結局その時もおばあさんは目を離した隙に消えました。

 僕はなんか、怒りを通り越してだんだん怖くなってきちゃって……それからバイトもやめました。そうしたら因縁も切れるかなって思ったんです。でも……四回目です。あのおばあさん、なんと僕が家で料理してるときに後ろに現れたんですよ。それでまた……口をもごもごさせて──

「すみません」って。

 後ろでひどい匂いがして、僕は思わず2時間煮込んだカレーに盛大に嘔吐しました。

 もう泣いて泣いて泣いて、吐きまくって、気がついたら僕も、その場で漏らしてて……家ん中めちゃくちゃですよ。ちょうどそのタイミングで弟が帰ってきてクソキレられるわ、その日は結局外食になって、両親からもぐちぐち言われるわで……掃除もね……雑巾足りなくてバスタオル一個ダメにしました。

 ただ……それ以来そのお婆さんは見てないですね。もうほんっと、なんだったんすかねアレ。二度と会いたくないです……へ?え?

 あ、あのー、今誰か「すみません」って言いました?

 僕の後ろに、お婆さんいません?

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