第3話『アパートの女』
これは僕の友達のCさんが本当に経験した怖い話です。Cさんは38歳の男性で、元々は実家暮らしをしていたのですが、つい最近一人暮らしを始めたんです。ただ、ご両親もあんまりお金を送ることは出来ないらしくて、家賃一万の曰く付きアパートで。
最初はCさんもすごく嫌がっていたんですが、実際見てみると綺麗だし、安いしで気に入ってしまったらしいんです。
まぁCさんは無職でしたし、趣味も少なかったのでゴロゴロできる広さと清潔さがあればよかったんですよね。
しかも不思議なことに、使ったティッシュをその辺に投げておいても気がつくとゴミ箱に入っていたり、雑に脱いだ靴下が一箇所にまとまっていたりする。僕は霊的なやつじゃないかって思ったんですが、Cさんは「ワイが無意識にやっとるんやろ。2秒前のこと覚えとらんこと多いし」とか言って呑気なもんでした。
で、しばらくは平穏だったんですけど……ある日ね、そのアパートに引っ越してから1週間後くらいのことなんですけどね? 夜中に目が覚めたんですって。時計を見たら深夜2時くらいだったんですけど、また寝ようとした時に、布団の中に何かいるのに気づいたらしいんです。
自分の後ろでね、何かが寝てる感じがするんです。「クァー、クァー」っていびきと寝息の間みたいな声が背中にかかって、Cさんは思わず飛び起きてしまった。で、その拍子に蹴っちゃったのか後ろにいた何かも布団から転げ出したんです。それは、小太りの女の人でした。背中には刺青みたいなものがあって、ショーツ一枚でもんどり打っている。Cさんはそれを見てやたらに悲しくなってしまって、そこから動けなかったそうです。そのうち女はもぞもぞ立ち上がって、お菓子の食べかすとか埃を手で集め始めた。Cさんはそれをじっと見つめていたらしいんですが、やがて女の人は部屋から出て行った。
翌朝、Cさんはお風呂に入ったんですけど、その時に昨晩の出来事を思い出して「あの人どうなったんだろう?」って考えてたんですって。で、ふと鏡を見上げた瞬間、ギョッとしたらしいんです。
自分の後ろに、昨日の女性が立っていた。
女性は、下手くそに微笑んだあと、ふらっと倒れたそうです。
浴槽に頭をぶつけて、血を流しながら、昨日の「クァー、クァー」って声がお風呂に響く。Cさんは半狂乱になりながら救急車と警察を呼んだそうです。
「自分の家に知らない女がいて、急に倒れた」って。
それで、とりあえず女性をお風呂から運び出そうとしたんですが……異様に軽い。小柄とはいえ太っていて、そこそこ体重がありそうなのに、本当にふわりと持ち上がったそうです。
Cさんが戸惑いながらも女性をリビングに横たえた時、インターホンが鳴った。警察でした。
それからのことは正直よく覚えていないらしいんですが、事情聴取らしい事情聴取もされず、解放されるまで三十分もかからなかったそうですよ。
そのあと、Cさんは就活を始めました。「一刻も早く出たいんや」って言ってましたけど、まぁどんな理由にせよ真面目に働くのはいいことですよ。
あ、そのアパートの曰くですか?いやなんかね、昔立ち退きを拒否した住人が自殺したとかなんとか。いや、その人は50過ぎの男性らしいんで、結局女性の正体はわからずじまいですよ。
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