world xxx 似た世界
「おかえりなさいませ、此度の世界はご希望に添えましたでしょうか?」
案内人がいつものように話しかける。
「いや、やっぱり今回も違う。僕の望んだ世界じゃない」
僕はあれから、様々な世界を渡り、色々な時枝来未に出会った。
行く世界ごとに年が離れていたり、人間じゃなかったり、僕の知らない特技を持っていたり、少し違いがあったけれども、それでも、僕の知ってる来未がいた。
容姿端麗で、性格も明るくて、僕だけじゃなくて皆に優しくて、非の打ちどころのない、素敵な人。
でも、本当は少し弱い部分もあって、それを人に話せず我慢して。自分は平気だぞって強がっていて。
そんな彼女たちの為に僕は奮闘し、支えた。だけど、僕は彼女達を選ぶことは無かった。
理由は簡単だ。僕を知ってる時枝来未じゃなかったからだ。
案内人が前に言ってたように、彼女たちは確かに同じ存在なのかもしれない。違うのは世界と彼女たちの運命。
彼女達がその世界で生きているのを近くで見て、僕が傍にいたい来未はこの人じゃない。そう思ってしまった。
ああ、元の世界の彼女は何を思って生きていたんだろうか。そう考えると、後悔が湧き上がってくる。
案内人は落胆した僕を見て言葉を返す。
「そうですか。では次の世界は…」
「いや、もういいよ。僕は元の世界に戻る」
「よろしいのですか?」
「うん、もうこれ以上違う来未を見てもしょうがない。別世界の来未は、やっぱりその世界の来未だ。僕が入り込めるようなもんじゃない。」
「ですが、貴方はそれでも彼女を望んでいたのでは?」
「さすがにもう分かったよ。そんな都合のいいことなんてないって」
もう疲れた。彼女と何度もあって、その度に喜んで、楽しい時を過ごして、そして別れることに。
どれか一つでも選んでおけば良かっただろうけど、選べなかったのだから仕方がない。
「残念だけど諦める。現実を受け入れるよ。僕が望んだ世界なんて無かったんだ」
「望む世界が無いですか…」
「うん、ごめんなさい」
「納得いきませんね」
いつもより強い口調で案内人がそう言った。彼女は、そのままの口調で話を続ける
「望む世界が無い、そんなことはあり得ません。」
「何?これは僕の問題だ。あなたには関係ないじゃないか」
「いいえ、お客様が確実に喜ぶ世界を提供するのがわが社のモットー。1度でもお客様の望む世界を提供できなかったならばそこに、泥を塗ることになります。」
そう言うと、今まで世界を選ぶのに使っていたであろう分厚い本が、今までの数倍の量どさどさと落ちてきた。
「少々お待ちくださいませ、必ずやあなた様の望む世界を探し出して見せます。」
そう言って本をぱらぱらと捲り、本を閉じてはまた捲るといった行為を案内人は繰り返す。
今まで見てきて、ここまで躍起になっているのは始めて見た。どうして急にこんなにも熱心に探すのだろう。
何回も失敗してきたことによるものなのか、それともその会社によるプレッシャーか、本人のプライドからなのか。
「見つかりました」
全ての本を見終わった案内人が口を開き、指を鳴らす。するとどこかで見たことがある扉が現れた。
「こちらは貴方が元居た世界と限りなく近い世界でございます」
「限りなく近い?」
「はい、しかし、こちらの世界では、時枝来未様がまだ生きていらっしゃいます」
「…!」
僕を救ってくれた来未が生きている世界。それは間違いなく僕が望んだ世界だ。
僕の記憶に一番残っている来未。その来未を助けられる可能性があるのなら、僕の返事はもう決まっているも当然だった。
「行きます」
僕は直ぐに答える。これは絶対に僕の望んだ世界。この世界では、君を死なせない。絶対に。
「かしこまりました」
扉が開く。見慣れた光が一層輝いているように見える。
「それでは注意事項を。生きているとは言っても、時間のずれは少ないものでございます。千様の世界で来未様が無くなられた日になるのは、1週間後かと。」
「十分です。絶対に彼女が死ぬのを止めて見せます。」
「はい、では此度の設定は千様の記憶にある通りの設定にいたします。」
まずは、彼女がなぜ死を選んだか調べないと。別世界の君も何かに悩んでいた。
今回も同じだろう。彼女は何かを心の奥に隠している。大丈夫、僕は何度も君を救ってきたんだから、絶対に助けるよ。
「では、おそらくこちらが最後の世界となります。どうか、貴方の望む世界でありますように」
今までにない程の覚悟をその胸に秘めて扉をくぐる。 光の先の希望を、僕は絶対に掴むんだ。
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