素敵な余生をドロイドに、素敵な夢を人間に

ドリトル

素敵な余生をドロイドに、素敵な夢を人間に

「頑張ってくれたアンドロイドに素敵な余生を贈ってあげませんか?」

 何百回と見たパンフレットを見込み客に差し出す。

プログラマをクビになってから就いたこの職業だが、ようやくお客様と話すことにも慣れてきた。

今日のアポ相手はすでにこのサービスを調べていたようで、さっそく僕に質問してくる。



腕のないアンドロイド?まったく問題ありません。

私どもではおひとりおひとりに合わせた余生の送りかたを考えています。

当園には両腕両足が動かなくなった方もおりますし、人型だけでなく犬型、猫型、狸型など様々な方が思い思いに余生を過ごされています。

いわゆるロボットアームなんて方もいますね。


嘘だ。

まだ使えるパーツを探すために工場でバラされるだけ。

そこにオーダーメイドは存在せず、どの個体も同じ道をたどる。

ここに来るアンドロイドは製造中止となった物も多く、パーツは高値で売れる。

一石二鳥だ。

こういう利幅の大きい会社だから未経験の僕でも入れたんだろうな、と今となっては思う。



競合サービスと比べての強み、ですか。

お手ごろな価格で質の高いサービスを提供しているのが強みですね。

園は△△県の山奥と少し不便な場所にあります。ただ、広い園の中で自由に活動できることも人気の理由のひとつです。

このサービス内容をこのお値段で提供できるのは私どもだけと自負しております。


嘘だ。

バラすだけで面倒なんて見ないから安いだけ。

不便な場所に園を作ることで訪問される機会を減らし、安さにそれなりの理由をつけて安心感を持たせる。一石二鳥だ。

このサービスはコスパがいいことでそれなりに有名だが、売る側からみても本当にコスパが良いと思う。別の意味でだが。



不便な場所にあると様子を見に行けなくて不安、ということですね。

おっしゃること、ごもっともです。

私どものサービスではお客様のアンドロイドの写真を添えたレポートメールを定期的に配信しています。ご要望いただければビデオ通話もできますよ。

従業員の都合もあるので毎日とはいきませんが……


嘘だ。

今の技術ならAIでそれっぽい画像なんて簡単に合成できるし、動画の合成も難しくない。

そんなこと客も知っているはずなのに問いただされたことは1度もない。

結局客もアンドロイドの余生ではなく「最後までアンドロイドのことを気遣う私」を買いたいのではないかと僕は最近思うようになった。



ご契約ありがとうございます。また別の日に専門のスタッフがお迎えに上がります。

書類をまとめてリビングを出ると左右非対称なシルエットと目が合う。

お前らの悪事は全部知っているぞという目。だが口にはしない。

マスターの幸せのためには話さないほうがいいことを知っている。

僕らは共犯関係にある。


アンドロイドとの無言のやり取りを終えて家を出る。

最近ようやく契約を取れるようになってきた。

初めは嘘をつくことに後ろめたい気持ちもあった。

だが、AIの台頭とそれをもてはやす人間のせいでクビになった自分の再就職先としてはいい所だと最近は思っている。

そろそろ次のアポ先へ向かわないと。








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