2:私パティがカット致します

「はあ、今日は疲れました。」


「お疲れ、パティ。バッグありがとう。」


小屋に戻ってきた一行は歩き疲れていた。

調査はある程度進んだ。

シャワーを浴びながら、秋篠はどんどん想像を膨らました。

城近くには水源になる所は見つからなかった。地下を掘れば魔界も水は出てくるのだろうか。いや、そこは魔王の魔力で出来ないだろうか。

風呂から上がると、パティは掃除をしていた。秋篠を見るや否や、彼女は笑顔を見せる。


「パティ、今日は先に休みな。疲れたろ。」


「そんな、秋篠様より先には。秋篠様は私の主人でございます。そんな私が、、、」


「じゃあ、これは俺からの命令だ。聞いてくれよ。」


パティは俯いた。

秋篠は特に気にしない。だがパティは召使いという身分から、風呂やトイレは共同というのが気掛かりだと言う。

そして、寝床が同じ部屋だと言うことも。


「秋篠様はお優しい方なのですね。了解致しました。恐れ入りますが、お先に失礼します。」


パティは風呂場へと向かった。

秋篠は紙を広げて、仕事を始めた。魔王からのコンセプトをまとめて、おおよその城の形を考えていく。


劇場と魔王城の融合、このコンセプトは面白い。魔王城でショーをする、聞いただけでも心が躍る。劇場といえば大きなホール、客席、ホワイエ、楽屋、練習用の小部屋、小ホールがあっても良いか。


「魔王城という事も忘れないようにしないとな。山に洞窟を掘って、中に入るのも面白いな。それで城に行けるみたいな。」


秋篠は昔遊んだRPGを思い出していた。

その時のラスボスが居た城。辿り着くまでのルーツ。謎解き、中ボス、宝箱。


「待て、それだと攻略されちゃうな。」


こうすると良いか、いや、これは違う。城を建築するのは面白い。それも魔王城。例え勇者が来ても攻略されない糞ゲーにしたい。


秋篠は横になり、少し休憩した。

頭の後ろで手を組み、ぼんやりとした。アイデアを出す時、秋篠はリラックスする事を大事にしているのだ。切羽詰まって考えるよりも、こうしてゆっくりしている時にアイデアが出やすいと彼は考えている。


秋篠は、パティにつかまり飛んでいる時を思い出していた。僅かながら目を開いていたのだ。

山の正体は山脈で、横に伸びていた。つまり、横幅が広いものを、この小屋からは縦に狭い方で見ていたのだ。山脈の真ん中は凹み、ダムの様に滑らかに曲がる。2つの山が、まるでくっ付いた様である。

中国の懸空寺のような、山の斜面に沿り、支えられる様な構造を考えた。

石で造れば、堅牢さが出て魔王城らしい。木で造れば、日本の城の様な美しさがある。しかし真っ直ぐな木をこの魔界の広大な森から探すのは骨が折れそうだ。


ふと、元の世界が気になり始めた。

家族は心配してないだろうか。設計会社に迷惑かけているだろうか。果たして、魔王は俺を元の世界へと帰らせてくれるのだろうか。


風呂場からパティの鼻歌が聞こえてきた。

パティは可愛い。料理や世話も何でもできる。隣にいてくれるだけでも嬉しい。秋篠は彼女に好意を持ち始めていたのだ。久しぶりの恋の感覚に、秋篠は戸惑っていた。


パティは風呂からあがってきた。髪を乾かし、そして秋篠の布団を広げる。

パティが秋篠を見つめていた。


「どうした?パティ。」


「あの。髪が伸びていらっしゃいますが。」


確かに。前に切ったのなんていつだったか。全体的にはまだ短いのだが、前髪は目元まできていた。


「ん、ああ。製図してる時少し気にはなってたけど。」


「それはお困りになられたのでは。私がお切り致しますか。」


「何、切ってくれるの?」


パティは胸を張り、ガッツをする。


「はい!私パティがカット致します。秋篠様の為に!うおー!」


パティは気合いが入っている。

髪ゴムを取り出して、髪を結びポニーテールを作る。


「パティ似合うじゃん。可愛いよ。」


パティの頬は赤みを増す。


「あ、いやそんな。秋篠様。私の仕事を褒めてくださるのは嬉しいですが。あの、外見とかはお辞めください。」


「ハハハ。コミュニケーションだよ。」


パティはハサミを取り出した。


「ではパティ、さっそくお願いします。」


「………はい、お怪我は絶対させません。」


「………おい、急に自信無くすなよ。」


パティは秋篠の髪を切っていく。


「パティはさ、家族とか居るの?」


「私の出生は存じ上げておりません。」


パティは笑顔で楽しそうに切っていた。


「あの、実は私、名前というものも今まで無かったのです。」


「え?パティってのは、、、?」


「はい。あの場で秋篠様に初めてお会いした時、魔王様から名前を頂きました。」


「………あの時、そうだったんだ。」


パティという名は魔王がその場で付けたものだった。召使いである彼女は、一体どんな人生を送ってきたのだろうか。


「とても、嬉しかったです。私に名前がある事に。秋篠様から、パティと何度もお呼びされた時。」


パティは髪を払い、秋篠を綺麗にした。


「出来上がりました。」


「おお、上手だね。ありがとう、パティ。」


パティはまた笑顔を見せた。


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