8:私がサッコンク、建築士だ

「ここか、彼の家は。」


秋篠はこの街で唯一の建築士、サッコンクという人物に会うことに。街の角、隣は森だ。

家は周りと変わらず黒い四角い建物で、壁をよく見ると無数の石が重なっている。庭は丁寧に手入れされている。庭のアプローチを抜け、秋篠と番人は扉の前に立った。秋篠は扉を叩く。


「すみませーん。サッコンクさんはいらっしゃいますか?」


「入れ。」


中から男の声が聞こえた。

扉が空いているのを確認して、秋篠は家に入る。番人は珍しく中まで付いてきた。


建物の中は薄暗く、蝋燭が等間隔で並べられている。不気味な廊下を秋篠と番人は進んでいった。


「こっちだ。」 


声がした方に顔を向けると、部屋の扉がある。

秋篠はノックし、失礼しますと扉を開ける。


突然、後ろに居た番人は走り出し、秋篠の前に入る。すると、もの凄い速さで何かが大量に飛んできた。


「………!?」


番人は身をもって秋篠を守る。

番人の甲冑には、大量の傷跡が残った。

椅子に座る男が部屋の奥に見えた。


「サ、サッコンクさん!?」


「もう1人居たか。」


秋篠は後退りし、走って逃げる。

だが廊下が長い。

すると周りが益々暗くなり、おどろおどろしい空気が包む。

この雰囲気に、秋篠は覚えがある。


「逃がさんぞ。」


暗い空間に、男の声が響く。


「待って!………俺を殺すのか!?」


「ふん、何しに来たんだ。」


「えと、あき、秋篠と申します!この街で、唯一の建築士であらせられる、サッコンクさんに、お会いしたいでございまして、その、ヒィー!!ごめんなさ〜い!!」


秋篠は泣きながら土下座をすると、辺りは元の明るさに戻る。


「………そうか、人違いだったか。すまなかった。」


秋篠が顔を上げると、目の前には男が居た。


「そう。私がサッコンク、建築士だ。」


男は手を差し伸べて、秋篠を起こした。

ただの建築士では無いと、秋篠は思った。

顔に大きな傷が斜めに入った、大柄な男。

短く刈り上げた銀髪の、歳をとったシワの目立つ老人。


「本当に申し訳なかった。いや、どうぞこちらへ。」


サッコンクは階段を登り、部屋へと向かう。

部屋は広く、立派な花も飾られている。


「先程の事は、どうか許してくれ。闇を繋ぐ者の気配を感じたものだったから。それに、やつの魔力を。」 


「ああ、番人ぶんしんですね。」


「どうぞ、こちらに。」


秋篠は椅子に座る。

テーブルを挟み、サッコンクも座る。


「秋篠さん、本当に重ねて、申し訳なかった」


「も、もう大丈夫ですから!!」


秋篠は話題を変えようと、建築の話をしてみる。


「あの、サッコンクさん。唯一の建築士であると伺ったものですから。」


「ああ。そもそも魔界には俺くらいしか居ないんじゃないかな、建築士なんか。ああ、目の前に秋篠大先生がいらしたか。」


「い、いえ、そんな。大先生って。」


サッコンクはハハハッと笑う。


「秋篠さん、さては何か奴に弄られたな。まあ、この世界はな、人間界と比べて小さいぞ。建築士なんて仕事にしてる奴、なかなか居ないもんさ。」


サッコンクは顔を顰めた。


「それなのに、城を建てるのを人間に頼んだなんて聞いたもんだからよ。最近、俺はキレてたんだ。あの野郎ふざけやがってってな。」


「あ、すみませんでした!」


「いや、違うよ。あんたを恨んでいるんじゃいない。奴にキレたんだ。人間なんかまた連れ込んでって。急に城を建てるってんだから、この街も何処も騒がしくなっているんだ。施工には材料や人手がいるだろ?」


彼はそう言うと葉巻を出し、一服。


「実はな。この街、俺が作ったんだ。」


「そうなんですか!?」


「一つ一つの建物、内装、道路とかもだ。建てるのには勿論手伝ってもらったがな。まあ、今は修繕しかやっとらんが。」


魔界の街の計画、そして建築。秋篠には刺激的なものだ。


「遥か昔はな、この辺は俺の家だけだった。だがよ、キッカケは忘れたが、どんどん人が増えてな。造ってやったんだ。俺の建物は全て一つの同じ形だ。それに簡素な造りで、秋篠さんにはつまらないだろ。」


「いえ、効率的で素晴らしいと思います。それに、私の住む場所には見ない、大変興味深い造りと思っています。」


秋篠は疑問を、サッコンクに聞いてみる事に。


「あのサッコンクさん。失礼ですが、闇を繋ぐ者とはどういったご関係ですか?」


サッコンクは灰皿に葉巻を置く。


「そこに居るだろう。」


扉が開き、そこには闇を繋ぐ者がいた。


「久しぶりですねサッコンク様。私の虚像ぶんしんを封じられた時は、少々焦りましたね。」


サッコンクは立ち上がった。


「秋篠さん、すまんが今日はもう帰ってくれ。」


そう言うとサッコンクは部屋を出る。

扉で闇を繋ぐ者とすれ違うが、それは異様な時間であった。


「秋篠様。いかが致しましょうか。」


「………魔王のことは、まあ一旦置いといて、家で休みたいかな。」


「承知致しました。それでは家までお送りいたします。」


黒いモヤが立ち込める。


「ん、待って!!」


秋篠は止めた。


「どうなさいましたか。」


秋篠は溜息を吐いた。


「パティ、忘れてる、、、」


「あ。そうですね、、、」


秋篠と闇を繋ぐ者は酒場に入った。


「ん、パティは何処だ?」


マスターは秋篠に気づいた。


「奥の部屋にいらっしゃいます………!?」


マスターは驚いた顔をした。


「闇を繋ぐ者様!!」


マスターは大きくお辞儀をする。

周りの客もマスターの声を聞くや否や、お辞儀をする。あまりの急な事に、椅子から転げ落ちる者も居た。


「闇を繋ぐ者様、まさか私の店にお見えになるとは、、、」


「いや、直ぐに帰りますから。お気遣いなく。」


マスターは部屋へと案内した。

その部屋ではパティがいつもより大きな寝息を立て、ベッドで眠っていた。


「寝てる時も元気だな、パティは。マスター、ご迷惑をお掛けしました。」


秋篠は頭を下げて詫びた。


「いえ、とんでもないです。」


秋篠はベッドに向かい、パティを揺さぶる。


「パティ、起きろよ、帰るぞ。」


「んん〜、秋篠様あ〜。」


パティは酒が回り、意識は定まっていない。

秋篠は、眠るパティの姿にあざとさを感じた。

秋篠はやれやれと、パティを抱き抱えた。


「お空へ参りまっしょー!おー!」

 

パティはそう叫び、秋篠を力いっぱいに抱きしめた。

秋篠は大きな溜息を吐いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る