5:ま、番人がいるからな!
魔界に朝は無い。
寝ても起きても、外は夜だ。大きな赤い月の威圧は、まるで魔界を支配しているようだ。
魔界に1日という概念は無いのだろうか。
秋篠は起きた。
パティの弾んだ鼻歌が微かに聞こえてくる。暫くはベッドに横たわり、聴いていた。
何だ、歌とか歌うじゃないか。
「パティ、おはよう。」
「秋篠様、おはようございます。」
パティは元気に挨拶をした。
おはようと秋篠は夜に言うのが、どうも違和感を感じて仕方がなかった。
「お食事の準備が整いましたので、お召し上がりになりますか。」
「ありがとう。頂こうかな。」
異世界での初めての食事。
それに、魔界の料理を口にする時が来るなんて。テーブルに置かれた目の前の肉、これは何の肉だろうか。野菜スープに、牛乳のような飲み物。全て美味しそうな見た目。中身とか内容は、あえて聞かないでおこう。
「ん〜。あ、美味い!」
「お口に合って何よりです。」
パティはガッツポーズを見せた。彼女は褒められると、小さな事でも笑顔を見せる。
それにしても、食事をするのはいい事だなと、秋篠は改めて思った。頭もリセットされたかの様に、冴えてくる気がする。秋篠は、お腹が空いていたのだ。
「街まで歩くと、どのくらいかかるんだ?」
「そうですね。んーまあまあ歩くことだと思われます。」
魔界は時間に支配されていない。やはり計るものや比べる基準は、それぞれの感覚次第なのか。
食事を終え、街へと向かう準備をする。
小屋を出ると、番人は静かに立っていた。
「出発進行ー!!」
おー!とパティも元気に声を上げた。
歩き始めると、小屋の前にいた番人も付いて来る。森の中へ入っていき、進む。ぐるぐると曲がった木。いかにも魔界の木という感じだ。夜の森を冒険するのは、スリル抜群なものだ。パティは軽い足取りで進む。
秋篠は久しぶりの遠出でもあり、汗をかき疲れてきていた。
「パティ、街には何があるの?」
「製鉄で有名な街です。酒場や宿場、ブティックなど色々なお店もございました。」
あまり人間界と変わらないのか。
魔界の建築とはどんなものだろうか。
どんな人が、どんな暮らしをしているのだろうか。異世界の建築について知りたい。
「パティ。もしかしてだけどさ、危険な生き物とか、居ないよな。」
「恐れ入りますが、私はこの辺りは存じ上げません。」
秋篠は青ざめた。
「ま、番人がいるからな!パティ、大丈夫だよな!ね!?」
「そ、そうですね!何でも魔王様直下の騎士で有らせられますから。」
「………」
そう。ずっと黙って着いて来るこの番人が、災時に助けてくれるはず。
「秋篠様、必勝法がございます。………もしも危険人物が現れた場合、魔王様の命令で、という風に仰るのです。」
「成程。それは良い作戦だね。そういう奴らは何処に居るんだ?」
「うんーと、アレですね。街にほとんど人は集まっていますが。森の何処かに小屋を構えているのは盗賊とかですね。」
魔界はやはり侮れない世界だと、秋篠は心構える。
「オイ、止まりな!」
突然、後ろから大きな声が飛んできた。
振り返ると、棍棒や槍を持つ大男が2人。
こちらを睨みつけている。
「この先は俺らの縄張りだタコ。」
「引き返しな。」
秋篠は前に出る。フラグ建築士になってたまるかと、交渉を試みる。
「あの、すみません。私達、魔王の使いの者でして、街に出かけたいところなんです。ですから、ここが近道に、、、」
「魔王の使い?おい、殺されたいか。嘘など言うんじゃねえ。」
秋篠は固まってしまった。パニック状態になり、もう声が出ず、足も動かない。
パティはバックを置くと、秋篠にハグをした。
「何だ、若いカップルなのかテメェら。」
「可愛い彼女じゃないの。嫌味なのか、ああ!?」
大男2人は歩み寄る。
すると番人は秋篠とパティの前に立ち、剣を抜き構えだした。
「ほう、面白いな。ギタギタにしてやるよ甲冑さんよ!」
「先ずはテメェからだ!!」
大男達が襲いかかる。
槍男は真っ直ぐに突っ込んで来た。
その後ろに棍棒男は隠れ、笑みを浮かべる。
連携技を仕掛けて来るのか、戦い慣れた2人と思われる。
番人は動じず、剣を静かに構えていた。
そして両者が交わる瞬間、光が放たれた。
紫色の、禍々しい光が番人から放たれたのだ。
大男2人は目が眩み、怯んだ。
不思議なオーラが周りに漂う。このおどろおどろしい雰囲気に、秋篠は覚えがあった。
目の前に、長髪の男が現れた。
白い髪をなびかせ、蝙蝠のような羽根を広げた。
「闇を繋ぐ者様!!」
大男達は目を大きく見開くや否や、体を伏せる。
「あなた方。この者達を殺めてはならない。」
「ほ、本当に申し訳ございません!し、知らなかったんです!闇を繋ぐ者様、恐れ入りますが、どうか私達の魂は、ご勘弁ください!」
闇を繋ぐ者は人差し指を立て、指を回す。
すると大男達を紫色のオーラが包み込み、2人は消えていった。
「秋篠様がご無事で何よりでした。」
「あ〜はあ。闇を繋ぐ者様あ〜。」
パティは秋篠を抱きしめながら、闇を繋ぐ者を見つめ、うっとりしていた。
「あの番人は、私が作った
「本当に、ありがとうございました!」
「それでは、お気をつけください。」
そう言うと、闇を繋ぐ者は消えていき、甲冑の番人が立っていた。
秋篠はパティのハグに気づいた。
闇を繋ぐ者に見惚れていたパティは、腕でメシメシと秋篠の腹を引き締めてくる。
「あの………パティ、痛い。」
「!?………申し訳ございませんでした!」
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