4:私パティがお供します

人は誰でも夢を持つことがあるだろう。

小さくても、大きくても、叶えたいもの。

秋篠の夢は、とにかくデカいものを建築をしたいというものだった。


「なるほど。お互いの持つ野望が私達を引き寄せ合ったのかもな。秋篠さん、早速設計ミーティングといきたいんだが、少しこの世界を満喫してみてはいかがかな。」


秋篠はその言葉にワクワクした。


「喜んで。この世界の暮らしの雰囲気を掴みたいですし、魔王、近くに街はありますか。」


「ああ。ここからだと道のりはあるが。そうだ、秋篠さん。お供でも付けるか。」


「お供ですか!?」


魔王は深々と帽子を被り直し、スーツを整え立ち上がる。


「いい事思いついたんだ。秋篠さん、喜べ!さあショータイムだ!!」


ジェントルマンはステッキを振った。

すると蝋燭の炎は壁に燃え広がっていき、部屋全体は火事の如し光景。魔王はテーブルに乗り、タップダンスに合わせて辺りは花火が炸裂。魔王のステッキが指す方にスモークが上がった。

そこから女の子が現れた。

黒いワンピースに、アッシュのミディアムパーマ。ジェントルマンの横に立つその姿は、ジャズダンサーを彷彿させる。


「彼女はダンスパートナー、っ何てな。パティとでも呼んでやれ!」


「………はい。私はパティです。よろしくお願いします。」


パティは目を丸くして、秋篠に挨拶をする。


「秋篠さん、今日はご苦労、小屋を用意してあるからそこで休みな。パティ。秋篠さんの手伝いでも何でもやってやれよ。」


「了解致しました。秋篠様、私パティがお供します」


パティ。

頬を常に赤らめている。歳は二十歳前後に見える。彼女は少し大きなバックを持ち、それは重そうにも見えた。

秋篠はパティを連れて外へ出た。

すると甲冑姿の番人が2人の後ろを着いてくる。


「大袈裟な護衛だな。あの、パティさん。その荷物、大丈夫ですか。手伝いますよ。」


「そんな、とんでもないです!」


秋篠は少し驚いた。この子、意外と声が大きい。


「秋篠様。パティでよろしくお願いします。」


「………パティ。」


「はい。」


彼女は目を丸くして秋篠を見つめる。


「パティはさ、元は何の仕事してたの。」


「私は召使いでございます。いつも魔王様の側に仕えていました。ですが、本の整理や掃除は魔王様が自分でこなしますから。正直に申しますと、あの、仕事は特に無く、庭いじりですかね。」


「そうなんだ。あの家といい、魔王は何でも自分でしたくなるのか。」


その魔王が俺をわざわざ呼ぶなんてと秋篠は不思議がる。


「魔王様は、最近楽しそうなご様子でした。秋篠様の建築を、楽しみにしてるのではないでしょうか。」


パティはハキハキと喋る。

良く通る声で、聞いていると心地良い。


「パティはさ、歌とか上手そうだね。」


秋篠が言うと、パティは立ち止まり驚いた


「人前で歌なんて、私のような身分がそんな事を、、、」


秋篠は友達の様に接することが出来るかと思った。しかし王が治めているからか、この世界の身分の関係は強いようだ。 


小屋に着いた。この小屋も多分魔王お手製なのだろう。

番人は外で剣を構え、やはり黙り込んでいた。秋篠は中へと入る。そこは8畳ほどの空間で、最低限生活はできる機能はある。広めの作業机もある。

失礼しますと、パティも中に入った。


「台所を拝見致します。」


台所に向かうパティの背中をみつめながら、秋篠は困惑していた。

お手伝いの子が来るのには何も文句なんて無い。しかし、召使いなんてどう扱ったら良いのか分からないでいたのだ。


「ああ、そうでした!」


パティが手を叩き、戻って来た。相変わらずの響く声だ。いつの間にか白いエプロンを付けていた。


「こちら、魔王様からのプレゼントでございます。」


彼女の持っていた大きなバックを開けると、製図道具、測量道具などが入っていた。


「あーはい。分かりました。ありがとう。」


「失礼ですが、これは何でしょうか。」


パティの手には、三角柱の定規があった。


「ああ、それは三角スケール、ってやつ。これ、メモリがほら、6種類あるんだ。これで違う縮図の線を引けたりするんだ。」


「一つで出来るのはありがたいですね。他にも見た事ない物ばかりです。」


パティの丸い目は輝いていた。

首を傾げ、興味津々な様子で道具一つ一つを眺めている。彼女は、子どものような元気いっぱいな人だと、秋篠は思った。


「他にも、何だろうっていうの、ありますかい?」


秋篠は聞いてみる。


「あ、いえ、大丈夫です。荷物、何処に置きましょうか。」


パティは何か思い出した様に、バックの中を整理した。


「そうだパティ、明日街に出かけたいんだけど、付いて来る?どうする?」


「はい、私パティがお供します。」


パティは胸を張り、笑顔で返事をした。

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