3:そうだ!それでこそ建築士だ!

魔王は机から飛び降り、華麗に着地してみせる。


「いや、すまない。驚かせたかったんだ。」


魔王は秋篠へと歩み寄る。


「改めて、ようこそ我が治める世界へ。ん、騒がしすぎたか。」


魔王はステッキを振る。部屋のチカチカな照明は、元の蝋燭へと戻った。


「どうだったかな、私のショーは。」


「………あ、はい、結構な物ですね。」


秋篠は正気を取り戻した。

目の前にはジェントルマンがいる。顔は若く見えるが、侮れない人物には変わりない。

秋篠は息を整える。


「いや、魔王さん、でしたっけ。何か、魔王と聞いて想像してたのと、全然違う人で。」


魔王はガハハと豪快に笑った。


「これはまあ、私の仮の姿と思っていい。とにかく、秋篠さん。あなたを呼び出したのは他でもない。」


魔王は椅子に戻り、秋篠の席を用意した。


「まあ、そこに座ってくれ。」


秋篠は恐る恐る勧められた席に座る。ジェントルマンと言えど、魔王と対面。

緊張が走る。


「怖がらずに、肩の力を抜いて結構。いや、仕事を請けて欲しいんだ。色々聞きたいことがあるだろうが、質問は後にしてはくれないか。まず、話を進めたい。」


魔王は背もたれに体を委ねる。魔王の真っ直ぐな目に、秋篠は構えた。


「私の城を建てて欲しい。」


「魔王城、、、」


魔王はステッキを振った。

机に、魔界の立体的な映像が見えた。


「この世界は実は、あなた達、人間界とすぐ隣同士なんだ。」


「何だって!?」


「ああ。普通なら私くらいの力ならば、簡単に行き来できる。だがな、その間には結界があって、直接的な支配をやすやすと私達はできない。お前たちを、天使などと言う奴らに守られているんだ。」


秋篠は話を呑み込めていないが、じっくり魔王の話を聞いていく。


「魔力に反応して天界から調査が来る。これが面倒でな。だから私も手は出せてないんだ。ま、今回は事が事だからな。」


秋篠は魔界へ連れてきた、あの女の人を思い出した。


「あの女の人は、魔王でしたか。」


魔王はまた豪快に笑った。


「違う違う。あれは、私の母だ。ほら、後ろに絵があるだろ。どうだ、驚いたか。」


後ろを見ると、女性がこちらを見つめる大きな絵があった。何処となく、あの女の人に似ているような気もする。


「私の母は今や実体ではなくその姿は魔力でしかない。不安定で現れては消えるんだ。」


そーいうものなんだなー。秋篠の思考回路は話に適応していった。


「もう、驚き慣れました。」


「ガハハハッ。私の今回用意した中で一番面白い種だったが、まあいい。話を戻すぞ。秋篠さん。あなたの設計図を元に、私の城を建てる。この魔界には人材なんて腐る程あるから、そいつらは必要な時に呼べよ。以上だ。」


秋篠は、首を傾げた。


「失礼ですが、魔王。あなたの力なら、ご自身の魔力?で建てられそうな気がしますが。」


魔王は眉を寄せる。


「ダ〜メ、嫌だ。まあ出来なくもないが、だって、それじゃつまらないんだもん。若い人間にやらすと面白いんじゃねえかってね。ベテランで年寄りの建築士なんて、堅いだろ。秋篠さんのような新米建築士なら、頭も柔軟だし、俺も口出ししやすいだろってな!ガハハハッ!」


秋篠も一緒に笑った。

魔王は立ち上がる。


「ちなみにだが、この私の家は魔王お手製だ。秋篠大先生には及ばないだろうが。これまで強引な運びだったのはすまない。さあ、この仕事、請けてくれるかどうかは秋篠さん。あなた次第だが、どうだ。」


魔王がステッキを強く握るのを、秋篠は見逃さなかった。断るとどうなのるか分からない状況。部屋の蝋燭は静かに燃える。


「………分かりました。この仕事、私が引き受けて見せましょう。魔王。」


「そうだ!それでこそ建築士だ!」


部屋は再び舞台と化した。

秋篠は、微笑みながらそれを眺める。

秋篠には、請ける訳があった。

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