2:それはお会いしてからの、お楽しみです

秋篠は天国や地獄、幽霊、妖怪と言った類いはあっても良いものと考えていた。

しかし、魔界があり、魔王がいることは考えたことすら無かった。


「いいですか、秋篠秀輝。ここはあなたの世界線とは別の場所にあると、思ってくださらない?」


女の人は腰に手を当て、ニコッと笑った。


「何を言うんだよ。魔界、いや、そんなものがほんとうにあるなんて、、、」


「魔界、そうね、魔界と思って頂ければ。迎えを今、寄越しておりますから。」


「なあ、どういう事なんだ。」


女の人は秋篠の質問を気にせずに、話を進めていく。秋篠は苛立ち始め、敬語なんか忘れていた。


「ほら、来ましたよ。秋篠さん。気をつけて行ってください。」


女の人はまた手で口を隠すが、笑いが洩れてしまった。


「迎え?ってか笑い過ぎだって!」


秋篠は周りを見渡した。

人影らしきものは見当たらない。


「迎えって、誰もいないじゃないか。」


「あなた、力は人間そのものなんですね。」


「………そりゃそうだ。俺は人間だから。もしかしてお前、人間じゃない、よな?」


「今更ですね。ええ、そうです。人間な訳ないじゃないですか。」


秋篠は急に、自分の置かれている状況を恐ろしく思えてきた。パニックが収まって落ち着きを取り戻してきた秋篠だったが、冷静になるに連れて、この世界が何かとんでもない所だと理解してきたのだ。

そして、目の前にはずっとヘラヘラしたこの女の人。


「お迎えにあがりました、秋篠様。」


「んん!?誰だ!」


秋篠の目の前には、コウモリに似た羽根が背中に生えた男がいた。白い髪のロングヘアで、後ろ髪は腰まで伸びている。


「失礼致しました。私は闇を繋ぐ者です。」


「闇を、繋ぐ者?」


「はい。話は魔王様から聞いています。さあ、此方へどうぞ。」


「おい、俺は何も聞いてないぞ。」


秋篠は周りを見渡したが、女の人は何処にも居なかった。

すると辺りは暗くなっていき、あのおどろおどろしい雰囲気が再び秋篠を包み込む。


「おい、また何処かに連れて行く気だな。」


「はい。我等が、魔王様の元へ。」


「魔王ねえ、もしかして、見世物にされるとか?」


秋篠の質問には答えなかった。

今までここで会う者、皆丁寧な敬語を使う。秋篠はそれに不気味さを感じていた。


辺りは次第に明るさを取り戻していく。

秋篠は少し身構えたが、拍子抜けしたように、口をポカンと開けた。

秋篠の目の前には、家があった。

白い外観。角ばった、何のへんてつのない、豆腐建築。

しかし、何か恐ろしい気配を秋篠は感じた。


「こちらへどうぞ。魔王様がお待ちです。」


闇の繋ぐ者の言うがまま、秋篠は建物に入る。暗い。傷跡、蝋燭、秋篠から見たら趣味の悪い内観だが、秋篠がよく知る家の構造と少し違う。秋篠は汗が全身から出てくるのを感じた。体が熱く、目眩いも起こした。

秋篠は驚き疲れていた。数々の謎と発見の大きさは、都会以上の物だった。

階段を登り、扉の前で立ち止まる。


「此方の部屋に、魔王様はいらっしゃいます。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい。」


「あの、俺、魔王に会うんだろ。何で俺なんかを連れてきたんだ。」


「それはお会いしてからの、お楽しみです。」


闇を繋ぐ者は静かに微笑む。

秋篠は迷っていたが、覚悟を決め、扉を開く。


蝋燭が灯された、薄暗い部屋。

秋篠は、まず長いテーブルが目に入った。視線を上げると、椅子に座る男がいる。

男は後ろを向いている。そして手に持つステッキを振った。


「闇を繋ぐ者、ご苦労であった。」


男はそう言うと前を向き、ステッキを秋篠に向けた。 

すると蝋燭の炎が燃え上がり、全て溶けた。

部屋は真っ暗になる。

静まり返ると思いきや突然、上からスポットライトが光り、男を照らす。

途端にジャズが流れ、ミラーボールが回る。赤、黄、青の照明が部屋に散らばる。

男は長いテーブルに乗り、ダンスをした。


「初めまして、かな。私がこの世界の王だ!以後見知りおけ!」


秋篠はまたまた拍子抜けした。

男は黒いシルクハットに赤いスーツ、ネクタイを締めたジェントルマン。


「えー、と………魔王、なのか?」


「ああそうさ。長旅ご苦労だったな!秋篠さん?」


チカチカした部屋の中、秋篠はまた混乱した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る