魔王城を建築したい!!

秋光

第1章 建築士と魔界の王

1:魔王城とか建てたくないですか

人は誰でも夢を持つことがあるだろう。

小さくても、大きくても、叶えたいもの。


都市近郊の設計会社でアシスタントをする男、秋篠秀輝。

24歳、アパートで一人暮らしをしている。

大学卒業から2年、彼の仕事ぶりが上司から早くも評価され順調である。田舎から来た彼は少し疲れた様だが、仕事がある事に幸せを感じていた。


「秋篠君。久しぶりの休日に、何処か美味しい物でも食べに行くか。」


「………あ、すみません。日曜日は舞台観に行きますので。予約済みなんですよ。」


秋篠は口角を上げ、短髪の頭を掻き、はにかみながら上司の誘いをあっさり断った。

休日は電車で東京の劇場へとよく足を運ぶ。

彼は観劇が好きだ。


日曜日、秋篠は銀座に来ていた。

ここには劇場がある。ビルの中の小さな劇場で、狭い劇場も見やすく丁度良い。銀座の通りを彼は、微笑みながら歩いていた。

建築士の彼にとって、建物の構造が見えてくるのだ。骨組みやら、素材やら、手に取る様に分かる。銀座の意匠を凝らした街並みを、彼は好きになっていた。


暫く通りを歩いていると、女の人が店の前に立っているのを目にした。白いワンピースを着て、黒の長い髪を下ろしている。店の前に立つことは珍しいことでは無いが、女の人は俯き、異様な雰囲気だった。


「あの、どうかされましたか。」


秋篠は話しかけた。

女の人は、顔を上げて彼の顔を見つめる。彼女の目は、赤く、潤いのある目だった。


「………秋篠秀輝ですね。」


「は、はい?」


この女の人、歳は30代か。黒い小さいバックを提げる。黒いハイヒール。肌が白く、高身長。黒髪ロングで、濃い化粧をした妖美な女性。

秋篠は驚いていた。頭の中で、記憶を探る。


「あの、いつか知り合っていましたか。」


秋篠は言った。秋篠はこの女の人を思い出せないでいた。いくら記憶を探っても、出てこない。休日の東京で知り合いに会う確率なんて、どのくらいなのだろうか。


「まあ、そうですか。思い出せませんか。」


秋篠の様子を見ていた女の人はゲラゲラと笑い出した。 


「では、これでどうでしょうか。」


女の人はそう言い、赤い唇を指で横になぞる。

秋篠が気がつくと周りは暗く、おどろおどろしい雰囲気が彼を包む。


「………え、ええ!?何!?」


驚く秋篠をよそに、女の人はまたゲラゲラと笑う。


次第に辺りは赤い光が照らす。

大きな赤い月が、暗い空に浮かぶ。

地面は硬い岩盤、曲がりくねった木々。

そこは、見渡す限り異世界だった。


「ハハッ。ここに来ても分かりませんか。そうね、分かりました。」


「何が!?」 


女の人は体が震えて、手で口を隠し、秋篠を見つめる。


「魔王に会ってください。」


女の人は笑いをどうにか堪えて言った。


「んん、誰?真央?」


「………あなた。魔王城とか建てたくないですか?」


「魔王城!?」  


魔王、という事はここは魔界とでも言うのか。

そう思った秋篠は、立ち眩みをした。


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