第14話 赤毛の怒り

 赤毛は偶然にも。

 偶然にもてしまった。


 例えどれほどの距離があろうともマリアの気配を間違えるはずがない。

 ゆえに、人では見ることのできない距離からマリアに突如襲った終わりを――


 マリアの胸に突き立った剣を。


「ああああああああああああああああああ」


 剣を突き刺した人間を。


「ああああああああああああああああああ」


 噴き出す赤い血を。

 突き刺された勢いのまま斃れるマリアの姿を。


「ああああああああああああああああああ」


 マリアが何かを掴もうと伸ばすその手を。

 赤毛はてしまった。



 心と心の交錯。

 赤毛も手を伸ばした。


 だが物理的な距離は、いかなる超常的な能力をもってしても埋めることはできない。


 虚空を掴む赤毛の手。

 そして消える命。


「駄目だ……マリア」


 一瞬の静寂の後、


 ざわざわと全てが動きだす。

 ざわざわと全てのゴブリンおれたちが動き出す。


 まるで赤毛の怒りに。

 まるで赤毛の慟哭に。

 まるで赤毛の衝動に。

 呼応するように。


「ああああああああああああああああああ」


 心が荒れ狂う。

 赤毛が手に入れた心が。

 ひび割れ、まるで血のように吹き出る黒い感情。


 怒り。

 嘆き。

 悲しみ。

 喪失。

 


(ワンさん……もうすぐ……もうすぐ産まれるの……だから……)




「ああああああああああああああああああ……」


 染まる。

 染まる。

 黒い感情。

 零れる。

 零れる。

 赤い血。


 そして……命。


(だから……護って……この子を……)


「マリアァァァァァァァ」


 















 そして紡がれる終わりの炎。


「――――――――――殺し尽くせ」


 パールサの動乱が始まった。

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