第12話 次なる課題

「まだ課題は沢山あります。」

「そうだろうか?」

 有彩はもう大丈夫だ。と言いたそうに満足そうな顔をしていた。



「私はもう解決したと思うのだが。」

「いえ。ここからが本番ですよ。まずは学校でどうなるかですね。」

「そうね。まだ不安よ」

 今は一時的に時間を稼いだだけに過ぎない。前も言ったが日が変われば何も無かったかのように始まる可能性もある。恐らくだが恨みは今回より酷くなっているだろうし注意が必要だ。



「とりあえず明日。不安かもしれないが行ってみてくれ」

「うん」

 奈美はそう返事しながらも不安そうな様子だった。何か護身用でもあればいいんだが。



(あれなら)

「そうだ。ちょっと待ってくれ」

 僕はポケットからある道具を手渡した。


「これを使ってくれ。もしかしたら役に立つかもしれない」

「え?もしかしてこれを使う為にあんなことをしたの?」


 僕は軽く頷いた後に使い方とコツを教えた。スマホのアプリがあれば使いやすいんだが使えないモノは仕方ない。


「僕達もいちよう遠くから見ているから」

「えっ本当!? うん、わかったわ!!」

 奈美は道具をあげた時より嬉しそうに目を輝かせた。まぁ道具より僕達がいた方が安心か。とりあえず今日出来るのはやりつくしたはずだ。



「じゃあ。また明日。」

 挨拶をすると奈美に帰りざまに僕達の方を向いた。


「その。あなた達のおかげで楽になったわ。あっありがとう」

 奈美は少し照れくさそうに頬を赤らめている。



「そう?それは良かった。」

「あぁ、気をつけて帰ってくれ。」

 少しでも力になれたならそれでいい。しかしこれからが本番だな。


 奈美は手を振りながら

「じゃあ明日会いましょう! 5時にここね!」

 彼女は僕達に連れて行きたい場所があるらしく来てと誘われた。


「ああ、また明日!」

 笑顔を返すように、手を振って奈美と別れをすます。




「ふぅ」

 ――奈美が帰った途端、僕はベンチに倒れ込んだ。結構疲れるなこれ。身体は元に戻っているが中身はボロボロだ。


「大丈夫か?」

 有彩は不安そうに僕の隣に座り様子を見ていた。



「ちょっと負担が凄くて」

「そうか、すまなかったな。よし。今すぐ帰って休もう。」

 有彩はスっと立ち上がった。帰る場所?



「あのー僕達に帰る場所ってあるんですか?」

「あるが」

 有彩は不思議そうな顔をして空を指した。天空?



「戻れるんですか!?」

「まぁ…」

 僕はてっきりここで住むと思っていた。帰れるなら今すぐにでも帰りたい。



「じゃあ帰りましょう! よっと………ぁ」

 僕は思いっきり立ち上がった瞬間。平行感覚を失い意識がふらついた。


 流石に少し負荷をかけすぎたな。

 ――バタッ


「さ…夢!」

 有彩の声が微かに聞こえたが反応する気力さえ残っていなかった。



 ………っ?

 僕が目を開けると天井が見えた。部屋か?



「?」

「彩夢! 良かった」

 有彩はウィストリアの姿になっていた。僕が目を開けるまでずっと見守ってくれていたのか。ウィストリアということは天空だな。



 まだ意識がぼーっとしている。手を握ったり閉じたりすると感覚はある。ただの疲れだろう。


「倒れたからここまで運んだんだ。大丈夫か?」

「そうなんですね。元気ですよ、ありがとうございます。ちなみにここは?」

「私の部屋だ。」

 周りを見ると沢山の書籍や紙が溢れていた。何気に女の人の部屋って初めてだな。



「彩夢体調はどうだ? すまない無理をさせてしまって。」

「大丈夫です。慣れてないだけですよ」

 ウィストリアは申し訳無さそうに謝り、僕は大丈夫。と元気ポーズを見せる。




 そんな話をしていると、グぅと急にお腹が鳴った。

「ぁ」

「そうか。あまり無理はするなよ。お腹が空いているみたいだし、今からご飯を作ってくるが何がいいとかあるか?」


「うーん、チーズが入っていれば何でも」

「ちいず??」

 ウィストリアは分からなそうに尋ね返した。

 そうか。ここは現実世界とは違うんだった。



「それはまた今度教えますね。じゃあ今日はウィストリア様の好物が食べたいです。」

「そうか! よし少し待っていてくれ!」


 ウィストリアは張り切って部屋から出ていった。しかし何故だろう。凄く嫌な予感がする。


 僕は周りをもう一度見てみたが本当に書籍ばっかりだ。記録のようなあとも沢山ある。前にみた本やウィストリアの仕事である事務って忙しいんだなと感じ取る。


 そんな事を考えていると近くの部屋から

 ガチャン! ガコッ! バッン!


「………!? なんだ」

 僕は立ち上がり、急いで扉を開けると焦げ臭い匂いが漂ってくる。


「うえっごほっ」

「はぁはぁ彩夢!完成したぞ!」

 ウィストリアは息を切らしながらも、ニッコニコとしていた。料理ってそんなに疲れるか?



「何をしているんだ?さぁ彩夢も座ってくれ」

 ウィストリアに呼ばれ、向かい側の椅子に座った。キッチンはよくある家庭とあまり変わりない。


「さぁさぁ! 食べてくれ」

 皿に乗っていたのは紫色のスープだ。ゴポゴポといっている。


「なんですか?これ」

水実すいじつ獣魂じゅうこんのスープだ。」

「水実?獣魂?」


 水実は水をたっぷり吸い込んでから咲く花で果物の類、獣魂は獣のオーラから生まれた一時的な生き物らしい。僕目線で言えば肉みたいなものか?獣によって味が変わるらしいし。


「獣いるんですね」

「ああ、見たことはあまり無いが最近よく見つかるんだ。おそらく、天界にもモンスターがいると思っている人間がいるからかな。これは魔法で閉じ込めておけば消えないまま食べられる。」

 幽霊とか氷みたいな扱いなのか?鼻が麻痺して匂いが分からない。



「とりあえず冷めてしまうから細かい話は後だ。さぁ食べてくれ」

「…」

 水実は青いらしいが何故こんな色になったんだ?ここまできたら大体展開は読める。



 が、

 ウィストリアは目を輝かせながら僕を見ていた。ここまできたら根性だ。腹を括るしかない。


 僕は1口勢いに任せて食べた。


「ん!あっ、この食感は肉みたいで美味しいですn」

 ダンッ

 僕は思いっきり机に頭をぶつけた。



「彩夢!?どうしたんだ!」

 ウィストリアの焦る声と魔法の詠唱らしいものが聞こえてくる。


「何故だー……何故効かないんだ!」

 多分そういう事じゃないと思います。



 数分後。

「ん?」

 僕はゆっくりと起き上がった。おそらく僕の身体が拒絶したようだな。それにしても倒れすぎだろ。



「本当に良かった。まだ食べるか?」

 ウィストリアは何故かゼェゼェと疲れきっていた。様々な色の液体や印の魔法書が机の上で山積みになっている。


「心配かけてすいません。もう1口でお腹いっぱいになりました。」

 はははと僕は笑って誤魔化した。



「そうか。材料に魔力を持っているから魔力がない人間には1口でも量が多いかもしれない」

 ウィストリアは指を鳴らし皿を綺麗にした。魔力=ご飯って感じか。でもまだまだ分からないことだらけだな。この世界は。ちなみにまだ食べられるが食欲がなんかない。



「あーそうそう。彩夢、今の現実ではもう午前9時だ。」「え?まだ夕方ですよね?」

 窓からもれる光は、紅の色をみせていた。



「実はここ、流れがゆっくりなんだ。天空の時間は現実の6日分ある。」

「じゃあ!」

 僕はすぐさま立ち上がったがウィストリアは不安そうにしている。


「いけるのか?彩夢?」

「えぇいけます!」



 僕は急いでリュックを背負い、家の外で待っているウィストリアの元へ向かった。

「よし。それじゃ行こうか。」


 ウィストリアはパチッと指を鳴らすと途端にまた光に包まれ、目を開けると違う景色になっていた。

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