第13話 観察

「現実か」

 僕が目を開けると現実世界になっていた。前みたいに塔を登らないんだな。


「あのー最初の時みたいに魔法いらないんですか?」

「1回、この世界に来たら魔法いらずに来れるんだ。私がいれば。事務だけの特権だが」

 本当に事務とは何だろうか。僕はそんな疑問を抱いた。

 


 周りを見ると昨日と同じ公園だった。日は少しだけ当たっており、優しそうなお婆さんが花に水やりをしている。


 僕達には気づいていないようだな。



 ん、待てよ、そういえば。

「奈美の学校聞いてない。」



 僕がそう呟き振り向く時には有彩の姿は消えていた。

「有彩さん!?」

「あぁ。少し待ってくれ。昨日の落とし穴が塞がっていない」


 落とし穴のふちを触りながら有彩は動揺を隠しきれずに見つめていた。昨日穴を埋めたはずなのに。



「危なっ。でも、昨日埋まってましたよね。」

 穴が埋まりきっておらず穴の外には土が出てきている。有彩は指を鳴らしスコップを片手に持った。おそらく穴を埋めるのだろう。


「あっ僕がやりますよ。力仕事は任せてください」

 胸を叩き有彩からスコップを借りようとした。ここは僕の出番だ。



 すると有彩はスコップを磁石のように使い、土を引き寄せ穴を埋めていく。

「えぇ」


 力は関係ないようだ。僕はその光景に唖然しながら見送っていた。


「よし行くか。おーい」

 その時、見たことのない白い鳩に似たような鳥が現れ有彩の肩に乗る。



 ぽーぽーと鳴いた鳥は溶けるように消えていった。

「了解だ」


 これアニメとかで見たやつだ。僕は好奇心が抑えられずに口が開いたままになっていた。



「よし、行こうか。彩夢」

「あっはい! 場所、分かったんですね!」



「あと、ここでは零って言ってください。」

「すまない。忘れていたな。」

 僕達は学校に向けて歩き始めていた。


 途中パン屋を見つけたので何個かパンを買い昼ごはんを確保する。

「どれが美味しいんだ?」

「うーん。」



「あの、味見します?」

「はい!」

「……?」

 パンの人に甘えてパンを口に入れる。店員は優しかったしどれも美味しかったので沢山買った。ここはまた来ないといけないな。リピート確定だ。


 学校の近くまでいくと校門から少し前の所で僕達は立ち止まった。

「着いたんですけど、どう入ります?」


「入れないのか?」

「入れないです。」

 校門には警備員が見張りをしていた。最近は物騒だし仕方ない。


 流石に真っ向からは不可能だろう。周りはビルや家だらけだし、柵から侵入するのは不審がられてしまうだろう。しかも犯罪だしな。


「そうだな……じゃあ、姿消してみるとかはどうだ?」

「あっなるほど。それはいいですね。」

 本来なら捕まるが仕方ない。有彩は指を鳴らすと手が薄くなっていた。いちよう近くのビルで姿を見ようとしても見えなくなっている。


 やはり透明になっているようだ。少し身体が重い気がするが気にしないでおこう。



「行きましょう!」

 僕達は校門を飛び越え警備員に見つかることなく学校に潜入した。


「これが学校」

「でかいだけじゃないんですよ、ここは」


「5年、5年」

 僕は中に入ると流れる看板から5の表示を探していく。



「ここは凄いな! どこを見ても子供が勉強している!!」

「やっぱり学校って知りませんか?」

「あぁ。全く。」

「じゃあ僕が軽く説明しますね。」

 僕は学校について話していくと5年の部屋に到着していた。



「ここか!」

 5年1組……2組。

 教室をよく見ると、そこには奈美が勉強していた。



「ここか。で、どうするんだ?」

「暫くは見守りましょう」

 有彩は不思議そうにしながらも頷いた。


「はい。じゃあグループ作ってー」

「ここ1班、2班」

 班の話し合いか。なんか授業参観のきぶんだな。話し合いが始まったが、なんだか少し違和感がある。


(奈美はほとんど話を降られず、最低限しか話をしてない)

 いや僕が敏感すぎるのか?



「私は賛成よ、だって」

「分かった。賛成だね。次どうぞ」


「えっ」

「僕は反対かな、だって楽しくなさそうだし。それをするなら僕は~」


「うんうん。なるほどね。」

(この空気)

 僕はモヤモヤした気持ちが少しづつ確信になりながらも授業の観察を終了した。


 ――12時

 昼ご飯のチャイムが鳴っていた。最近は不登校が多いのか皆は弁当を持参し好きなように食べている。


「ねぇ、食べない?」

 大人しい子に奈美は話しかけていた。声のテンポ、強弱をみるにいつも通りにしているようだ。



「ごめん。今日は違う子と食べるんだ」

「そうなの?」

 その子は少し怯えながら目が泳いでいる。


 奈美は仕方がなさそうに自分の席に座り1人で食べようとしていた。

(奈美は予想外だったのか、少し動揺した様子で席に戻る。見るにいつもと違うようだ)


 やっぱりおかしい。僕は人間不信だから考えすぎかもしれないが。まぁ疑わしきは即対処に限る。


 有彩に頼み、奈美に手紙を渡す事にした。ここで姿を見せる訳にはいかないし。

 奈美の机にひらひらと紙を舞わせる。奈美は不思議そうにその紙を受け取った。

(ん?何だろう。えーと奈美へ?)


「読んでくれてますね」

「あぁ。そうだな」

 うれしそうに手紙を開けて読んでいる。



『奈美へ。れいです。屋上でご飯でも食べながら話しませんか?無人にしてるから安心してくれ。』


「なんか屋上使えないんだけど………」

「何よ。今日は立ち入り禁止って」

 奈美が廊下に出ると未空達は呆れながら帰っていた。


(やっぱり!)

 嬉しそうに奈美は、屋上に急いで向かってくる。



 ガシャ

「れい、有彩!」

 奈美は無邪気に走り出し有彩に抱きついた。


「やめないか」

「えへっ。つい嬉しくて!!! 昨日ぶりだね。」

 3人だけの広い屋上で僕達はご飯を食べ始めた。

 僕の学校は屋上が使えなかったから初めての気分だな。



 屋上には厳しく棘がついた柵が回っており、『のぼるのきんし!』とデカデカと書かれている。

 何か、事件でもあったのだろうか?


「あっ、そのパン!」

「んっどうした!?」

 僕は奈美の声にびっくりしてパンを落としかけた。



「ううん。きっと後で分かるわ!美味しい?」

「あぁ。もの凄く。」

「ふふっ良かった!」

 奈美は教室の時より明らかに楽しそうに見えた。



「ところで変わったことは?」

「うーん、なんか前より皆おかしい気がするわ。1部の子は前よりよそよそしい感じ」


 推測だが皆に圧をかけたのではないだろうか?

 確かに、奈美に手を出してはいないが悪どいやり方だ。結構傷つくんだぞ?


 未空は大人しく下がるつもりは無いようだ。



「分かった。とりあえず、今日の所は頑張ってくれ」

「えぇ。まだ痛い目に合うよりはマシだし」


 奈美はそう言っているが持続的にキツくなるんだろう。悪いが、このままさせるつもりは無い。


 続く前に止めてやる。



「皆とご飯を食べる事が出来て良かったわ!頑張ってくるね」

 彼女が元気になったようで良かった。僕達は頑張れ。と手を振り遠くから教室を眺めていた。



「今からどうするんだ?」

「まずは、加害者達の状況を見ましょう。」

 やっぱりイジメは簡単には終わらない。きっと争い無しに生きていくなんて不可能だろうな。

(それでも終わらせてやる)



「本当に彩夢がいてくれて助かるよ」

「そう言ってくれるとうれしいです。」

 僕はただ奈美を、彼女を見ると自分と重なってしまうのが苦しいんだろうな。だからだろう。僕の分まで幸せに生きて欲しい、助けになりたい。と自然に思ってしまう。


「力になると言ったので出来る事はします」

「ありがとう彩夢」

 ウィストリアの笑顔は輝いているように見えた。

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