第9話 まずは聴取から

「ちゃんと来たのね。来ないと思った、ぁあはは!」

 巻き髪の女を中心にぞろぞろと何人か揃ってやってきていた。後ろに男2人に女3人、真ん中と合わせて6人だな。



(うわーーこうゆう優劣感満載のやつ嫌いだわー)

 僕はただ純粋に引いていた。これまでの人生ろくな目に合ってないからか僕の勘が何かを訴えている。



 男が女の後ろにいるってなかなか無いが攻撃面は完璧だ。三人組でスーツきて階段を登りながら振り向きざまにドヤ顔して紙を巻いてくれたら笑えるんだが。


 僕は色々と関心した。

「ねぇ関心しないでよ。本当に大丈夫なの……これ?」

 奈美は僕の様子を見て肘をつつきながら囁いた、泣きそうになりながら震えている。



 そうだ。今は関心している場合じゃない。


「大丈夫。絶対に何とかする」

「うん」

 僕はとりあえず、奈美との関係や問題点を観察する事にした。まぁ、僕から聞かなくても勝手に吐くだろうし。


「まぁ、逃げても学校で潰してやるけどね」

「あははは」

「私たちに歯向かったのが悪いのよ」

 奈美は何かしたのが最初らしい。しかし、数で来てる以上、公平な和解は出来ないだろう。



「おい、誰だよ。お前」

 1人の男が僕を睨んできた。周りはあまり僕を気にしていなかったようだ。もう少し話しをして欲しかったが仕方無い。


 僕は睨み返してスっと笑う。

「私はれい!奈美の友達だよ」




 ――数分前

「僕が一緒にいて出来る限り前にでる。絶対に手は出させないから安心してくれ。」

「でも、それって無理がない?あなたって私より遥かに大きいし保護者枠?」


「そんなわけない。有彩さんなら僕を奈美のような姿に出来るんですよね?」

「ああ簡単だ」

 ウィストリアは奈美を僕から遠ざけた。


「チェスペア」

 有彩は僕に指先を向けると、指先から光が溢れ僕を包み込む。


「ん? !!!」

 光に包まれた途端に視界が真っ暗になり身体の力が抜けていく。


「大丈夫?」

 ハッと目を開けると2人が覗き込んでいた。いつの間にか倒れていたのか。


「凄いね! 起きてよ零、ほらほら」

 奈美は興奮しながら僕を起こし、カバンから小さな鏡を渡してくれた。


「え、これが僕!?」

 僕は鏡を何度もみて顔を動かすと同じように動く。うそだろ。奈美と同じくらいの身長になり短い髪の毛が肩くらいになっている。何もかもが別人だ。


「凄い。僕じゃないみたい。…?」

 感動した矢先、ズキッと痛みが頭に走った。



「すまない彩夢。やはり、魔力が何かおかしいみたいだ」

「ん? 彩夢って?」


「ああああ! 僕は零です! 間違えないでくださいよ~ははっ大丈夫です。このくらい!」

 僕はあははと笑って誤魔化した。有紗は心配そうにしていてそれどころではなかったようだ。


 暫くの酷い頭痛、声がそのままなこと。色々あるが今はそれを考えている場合じゃない。

「とりあえず話し合っておきましょう」




 そして、今、作戦を決め僕は友達として潜入していた。

「私はれい! 奈美の友達だよ」


 声は魔力が上手く使えなかったらしく変わっていないので、声帯を絞りだし無理矢理女声をだしている。明日は声がでないだろうな。


 すると周りの奴らがゲラゲラと奈美を笑い始めた。

「あなた友達いないじゃない」

「1人ぼっちのくせに」

「なんかで釣ったんじゃね」

「早く逃げたほうがいいよ?巻き込まれる前にさ」


 流石に酷くないか? ボッチとか友達いないとか。

(なるほど。これが最近の小学生の暴言なのか)


「えー。何言ってるのー?」

 それにしても、脳みそ6つは大変だなー。僕は綺麗に聞き流した。



「……っ」

 しかし奈美は真に受けて言葉を失っていた。目には「恐怖」というより「怒り」の色を見せている。


「よくいうわ。あなたがバラバラにしたくせに」

「あ?なんだよ?」

「あなた達が悪いじゃない! あなたがユウにしたこと絶対に許さない!!!!」

 奈美の怒りをあらわにして声を荒げた。


「うるせぇ!」

 男の子に続き、ガヤガヤと揉みくちゃな言い合いが始まると、真ん中の女がため息をつく。



「はあ、冷めちゃったな。今日は買い物だけだったのに明日覚えてなさいよ?」

 女の子は呆るように言うと他の人達もつられるように帰ろうとする。


「待ちなさい!」

 その途端、奈美は泣きそうになりながら叫ぶ。僕としても明日に回されるのは厄介だ。多分、学校なら好き放題出来そうだし奈美の為にも今ここで決着をつける。



「ちょっと待ちなよ。奈美がこんなに言ってるし、あなた達なにしたの?」

 僕は奈美を庇うように声を通した。空気が僕にむき周りが僕の顔を見る。



「関係ないでしょ?」

「関係無いからって私は友達を庇うのがだめかな?この状況、どうみても奈美が不利じゃん。これは友達じゃなく、あくまで公平とみた意見だけど?」


「どうせこの中にも関係無い人いるでしょ?」

 奈美はうんうんと頷き僕の裾を引っ張っている。



「…」

 何人かは分からないが下を向いたり視線を逸らしたりしている。このまま詰めれば形勢逆転の兆しはありそうだ。


「奈美をこんな風にして、このまま帰ったら後悔するよ?」

「何言って」


「っ……??」

 彼らの表情が凍りついた。必死に足を動かそうとしているがウィストリアは滑り台に隠れながら圧をかける。人間に適うはずがないよな。


「あなた達の茶々も受け入れるからさ。あくまで公平に。話してみなよ奈美?」

 僕は奈美の目を見て(大丈夫)という念をこめる。絶対に解決して見せると約束したからな。


 奈美はもう一人じゃない。



「ぇぇ、わかった。」

 奈美は覚悟を決めたように口を開いた。



「これは二年前。私にはユウって親友がいたの」

 またしても、僕が話をまとめよう。


 彼女の親友ユウ。違うクラスだが帰り道が一緒にな事もあり、1年生の初日から仲良くなったそうだ。


 2年生は同じクラスだったが3年生では違うクラス。それでも、いつも通りの毎日を送っていたと。

「そうだと…思ってた。」


「ねえねえ、遊ぼう!」」

「うん!」


「ねえ、遊ぼ」」

「うん!」


「遊ばない?」」

「うん?」

 少しずつゆうは弱り、来る回数も減っていった。




「……遊んでもいい?」」

 ――そして、昼休みしか来なくなった。流石に奈美もおかしいと思い始めたらしい。


「どうしたの?最近元気ないよ?」

「はは、大丈夫だよ。嫌だなー奈美」

 笑った彼女は元気に、いや、本当は見せようと頑張っている気がしていた。


「どうしたの!? その傷?」

 ユウはある時、怪我をしていた。明らかに人為的で元気も次第に無くなっている。


 無理して笑う姿に耐えられず、奈美は覚悟を決めた。

 ユウの母も父も優しい人だったし、いつもゆうは家族の事を話していたので家族の問題ではない。



 なら、原因は大体絞れる。

「ある日の休み時間。私はユウのクラスに乗り込んだの。」


 三年生になってから、ユウがずっと苦しそうに奈美の元へ来ていた。まるで逃げるように。その風景がこびりつきながらも教室に入った。



「でもユウはいなくて」

 だから、クラスメイトに話を聞いてみようとしたらしい。


 ――が

「ねぇあなたユウと同じクラスよね?」


「そうだけど」

「なら、ゆうが何処にいるか分かる?」

「…!」


 おとなしそうな子は「ユウ」という言葉を聞くと、顔を青ざめながら目線をそらす。



「知らない、っ知らない!」

「本当?」

「!」


 問いただすと、彼女は逃げ出した。

「まっ……待って!!」



 そう追いかけようとしたときだった。

「無駄だよ。女子は尚更言わない。俺は知ってるし話すからついてきて」


 急に現れた男子の言葉を奈美は信じるしかなかった。

「ユウはいじめられてる」

 何でも出来て器用だったユウ。それだけである女の鼻についた。



「どうして分かって助けないの!?」

「俺だって怖いんだよ、情けないって思ってる」

「思うだけなら自由よ!」

 奈美はつい感情的になり口走った。


「お前だって友達だったらもっと早く気づいてやれよ!」

「……っ」

 心の底では気づいていたが奈美は嘘だと思いたかった。奈美はただ下をうつむく。


「だから2人で止めに行くんだろ」

「行ってくれるの?」

「当たり前だろ、あんなの見てほっとけるか。それに、二人なら何とかできるしな。」


「えぇ!」

 奈美達は急いでゆうの場所に向かって走り出した



「乗り込んだのよ。」

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