第7話 作戦会議
「では、早速ですけど作戦会議をしましょう」
「作戦?それは必要なのか?」
ウィストリアは急に何を言っているんだ? と首をかしげている。
「必要ですよ。自殺の原因は様々あるんです。それに、そういうのは一筋縄ではいきません。」
もし知らない人が止めに来ても僕なら知らぬ顔で死ぬだろうしな。
「そうなのか?」
ウィストリアは全く分からん。という顔をした。説明したいがどう言えばいいのか分からない。だから見せるしかないだろう。
「これから分かると思います。」
自殺の過程どころか人間について知らなそうだし、実際に見せていくしか方法はなさそうだ。
「では。まず、ここでウィストリア様が出来る事を教えてください」
魔法が使えるなら出来る事は格段に増える。自殺を止めるというより、その原因を解決しない事にはいかないし。
「そうだな。炎や水、非現実的なものは規制がかかっているが相手を黙らしたり動きを止めることは出来る」
大体、目に見える現象以外は何でも出来るという事か。
「例えばですけど、僕の性別を変えて身長を変えることも?」
「出来るぞ。声もだ。」
これで何かあった時の変装は何とかなる。変装ってなんか非現実っぽくて憧れていたから一回くらいはやってみたい。化けの皮を剥ぐとか。
「相手に圧をかけるのも?」
「出来る。本気を出せば一瞬で殺す事も出来る。」
「それはやめてくださいね」
圧で死ぬのは勘弁してほしい限りだ。潰れて死ぬなんて原因を探る警察も大騒ぎになるだろうし。
でも相手を脅すくらいは簡単に出来るようだ。
(最初は恐怖を憶えさせて対象を牽制する手段もあるか。)
「過去に行けたり?」
「出来る。が、その時の死を変える事は出来ない。あくまで小規模のみだ。」
「テレポート…」
「出来る」
「他には?」
「人間にびっくりされるのは、記憶を操作、洗脳する魔法だろうか?人間相手なら100人くらいは出来るはずだ。」
規模が絶妙なバランスだ。でも、これなら本当に解決出来るかもしれない。
「大体分かりました、ありがとうございます。ちなみに資金は?」
「あぁ、天空には大体1000億くらいあるな」
「あっ、そんなに。ん、……せっ…千…億、億!? 1000億!!? 何でですか!?」
聞いた事がない額に落ち着いて聞いていた僕もひっくり返りそうになった。
「死ぬだろ?」
「は、はい。」
「死んだ後に誰も通帳をいじらなければその金は無駄になる。」
「ですね。」
「天空ではその無駄になる資金を転生者へ。現実のお金の引き取り額を大体定め、異世界で使える通貨を代わりに渡している。」
「つまりその金だと?」
ウィストリアはそうだ。と頷いた。確かに有難い機能だが僕みたいな学生には関係ないのが悲しい。
「あと置いていった鞄から取ることもある」
「ん? それって、どろぼ…」
「だって荷物は要らないらしいし」
「まぁ……」
少し引っかかるが、それならどんどん金が増える訳だ。彼女達は金の価値をあまり理解していないから平然としているのだろう。
(あとは)
僕はグラスに写る変わりきった姿を目にやった。
「名前を決めましょう」
「名前?」
「僕は死んでいます。それなのに僕の名前が出ていたら知っている人がいたら驚くかと。ウィストリア様の名前も怪しまれないように、この世界に合わせましょう。」
「そうか。よし分かった」
「苗字は後でも大丈夫です。」
「了解だ。」
ウィストリアは眉をひそめながら考えている。急だし僕もあまり思いつかないな。
よし。じゃあ気分を変えてみるか。
「1回外に出て視野を広く見てみませんか?」
気分転換すれば何かアイデアが沸くかもしれない。僕達はカラオケをでて外を歩いてみる事にした。
「ここはなんだ? 人間も書を読むのか?」
「はい。書っていうよりは本って言います。魔法書なんかはありませんけど現実について知りたい事があったら大体答えがありますよ。」
本屋の前では女の子達が楽しそうに雑誌をみている。
「ねぇねぇ、アリサって可愛くない?」
「本当にね!私1回会ってみたいわ!」
ウィストリアはそれを聞いて何かをひらめいたように立ち止まった。
「アリサ……これだ!」
「そんな適当でいいんですか?」
名前って結構大事な気が
「…?構わないが」
まぁ一生使っていく名前じゃないしな。
「分かりました!じゃあ、漢字は有彩(ありさ)にしましょう」
「あぁ!ありがとう」
僕には漢字の知識がないが、とりあえず頭をひねり頑張ってつけ手のひらに書いた。
「じゃあ、僕は」
僕は辺を見回す。うーん、どうしようか。僕が考えていると、また女子達が他の雑誌を見て言い始めた。
「ねぇねぇこっちの本も見てよ。レイくんってかっこよくない?」
「うんうん、付き合っちゃいたいくらい!」
有彩はまた女子達を見て固まった。
(あっ)
「レイ。いいな!」
またしてもか。でも名前が決まらないまま時間が経つよりはマシだ。
「じゃあ。僕は零で」
「よし決まったな」
有彩は準備はこれでいい。と頷いた。
「すまないな。彩夢、お前を巻き込んでしまって。」
歩いていると、ウィストリアは申し訳なさそうに謝った。
「いいんです。僕、実はあんまり目標がないのが悩みで。だから、この活動をしながら目標でも見つけます」
今回も死にたいと言ったから死んだしな。高校では何も目標がなくて進路を考えても色々と詰んでて嫌になった。異世界に来てもハーレムも興味ないし、まあ魔王でもいたら倒そうと思ったけど。
僕としては居場所があればどうでもいい。
「そういえば、その転生しそうな自殺者はどこにいるんですか?」
「ああ。そろそろ時間だ。早速場所へ向かおう」
有彩はパチッと指を鳴らした瞬間、景色は真っ暗になった。音は止まり人も鳥も全てが動かなくなっている。
「……!」
辺り1面が静寂につつまれていた。
横を見ると有彩は一瞬ウィストリアの姿になり地面から魔法書を取り出していた。
「フラベッナル!」
魔法書はペラペラと勝手に動き、眩い光を放ち始める。
「――っ!!」
光で目がくらんだ。目を開けると一瞬に景色が変わっている。またしても知らない場所だった。時はいつもと変わらず動き始めている。
何だったんだろうさっきのは。
「あれだ!!」
有彩は叫びながら指を指した。
「あれって」
僕達の前にいたのは泣きながら反対側の交差点に立つ小さな少女だった。
走ってくる車を見つめ、彼女は目を閉じ体勢を前にする。
「――」
………これは、まずい!!
僕は即座に察した。こんな小さな少女が!!
「待て!!!!」
僕は大きな声で叫んだ。
しかし彼女は聞きいれる様子はない。
「こうなったら!」
僕は交差点を全速力で飛び出し走りだした。
向かってくる車との間は紙一重。それでも僕は怯まず死を覚悟しながらも足を前に踏み出した。何としても彼女を救わなければ。その一心で手を伸ばすと身体に触れた。
倒れ込む彼女を抱えると、そのまま交差点の端に連れていく。
「……ぇ」
少女は目を大きく開け息を切らしながらびっくりしていた。
「っはぁはぁ、どぉして!!! なんで、なんでっ! 死なせてくれないの!!」
少女は泣きながら僕を睨みつける。瞳に写る僕は全くの他人だった。
「それは」
「死なせてよ!!」
表情をみるに、彼女の人生は自分の人生より辛いものかもしれない。
僕の行動は本当に正しいのだろうか?いや、余計な考えを振り落としても彼女の決意を邪魔してしまった事実は変わらない。
「ねぇ、聞いてるの!?」
彼女の行動を邪魔した以上、僕はなんとしても責任を持たないといけない。
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