現実へ
第6話 現実世界と天空状況
「――嘘だろ?」
僕の視界に映ったのは紛れもない現実だった。しかし、ここは僕の住んでいる場所とは違う。恐らく都会の方だろう。
(浮いている訳でもないよな)
僕の体はどうなっているのだろう。元の身体は無いはずだし、視界は少し高い気がしないこともない。どういう原理だ?
僕は姿を見るため服屋のガラスに目をやった。
「これは……」
僕は自分の姿に息を飲んだ。
映る僕は全くの別人だった。次いでに少し顔が整っている気がする。
「驚いただろう?」
聞き覚えのある声に僕は視線を向けた。
「??」
そこに居たのは、髪をポニーテールにして眼鏡をかけた女の人だった。
「もしかして」
「あぁ、私だよ」
女の人は眼鏡を軽くずらしながらクスッと笑った。やっぱりウィストリアだ。声も変わってないし。
「少し話そう。どこかにいい場所はないだろうか?あまり現実を知らなくてな」
「個室ならカラオケとかですかね?」
「カラ…?オケ?」
ウィストリアはうーん。と首をかしげていた。まぁ、カラオケが分かる天使なんている訳ないか。
「さっき言った通り個室ってだけです。」
「そうか。ならそこにしよう」
「分かりました。えーと、そういえばお金とかありますか?」
リュックはあるが金はあんまり入っていない気がする。
「あぁ。持っているよ」
そう言うと、ウィストリアは肩にかけた鞄から小さい箱を見せてきた。
「ーー??!!」
驚く事に中に万札が沢山入っていた。本物だよな?この光具合は本物に違いない。
それにしても大金じゃないか?
「これなら大丈夫ですね。あの、カラオケの代金に使っても? 半分は出すので」
「そんな半分と言わず、全部使ってくれて構わない。」
なんだこの太っ腹な天使は。
僕は感謝しながら一万円を受け取った。
「じゃあ今から探します。その間、軽く案内しましょうか?」
「それは興味深い。じゃあ、あれ、あれは何だ?」
スマホは黒い画面で動かないし、歩いて探すしかないようだ。
ウィストリアは、知らない事だらけのようで楽しそうにしていた。軽く話をしながらカラオケ屋を見つけ彼女を連れて行く。
高校生なら生徒手帳がいるがこの身長なら大丈夫だろう。
それに1度死んだ者が跡を残すのは避けたい。そんな事を考えながら、受付を済ませウィストリアを案内する。
ついでに、ドリンクバーの水を取りウィストリアに渡した。
「どうぞ」
「すまない、ありがとう」
「………で、さっきにはどういう事ですか?」
僕は疑問の目で見つめた。
「まずは、あの状況を説明した方がいいな」
「はい聞きたいです」
天空と聞いて思ったものと全然違うし、今は慣れたが最初は戸惑った。
「私達の世界は天国とは違うんだ。現実には無かった幸せを望んだ者だけがくる世界。それが天空だ」
「なるほど」
「最初は一緒だったが、数が増えすぎて別けるようにしたんだ。」
ウィストリアは悲しそうな顔をしながら水を飲んだ。
「しかし、あまりにも増えすぎてだな」
これからの話はごちゃごちゃしているため、僕が簡単にまとめよう。
あまりにも増えすぎた転生者に女神は手を焼いていた。扱いも酷く道具扱いする輩さえいる。場は深刻だったらしい。
そもそも転生というものは辛かった人生をやり直し幸せになって欲しい。そんな考えからうまれたそうだ。
だが、それをいい事に自ら死ぬ人間が増えてしまった。何故か知らないが敬う気持ちは無い者ばかり。
「何故だろうか?」
「さぁ何ででしょうね?」
多分あれらだろうな。しかし、異世界に送り出してしまえばなんとかなった
設定、メンバー、敵。様々なジャンルを人間界から取りんで作られている。しかし手がかかる為、動力として1人の神が付きっきりで対応する必要があった。
その世界、人、町、全員を動かす為に、沢山いた神が天空から消えていく。
「…………そして、神が天空からいなくなった。」
また、天空に転生を望む者が現れた。毎日毎日、減る事なく増え続ける。
「対応には困ったが世界が平和になれば神様は離れられる。だから、しばらく待って欲しいとお願いした。」
が、数は減る様子さえ無かった。
もうそのときには、女神達だけで対応出来る数を遥かに越えていた。女神は対応に暮れ嘆き悲しむ日々。
「だから、女神は私達に助けを求める事にした。」
天使の役目は、神の手伝いをする事。しかし、神が居なくなってしまったので手伝う事にした。
それでも神が増える訳もなく。限りなく増え続ける。
天使は辞めたいと言ったが、女神は辞める事を許さなかった。そのくらい必死だった。
数年後、仲は険悪になっていき。ついに戦争が始まった。
「で、真っ先に歯が向いたのが人間だ。」
それを聞いたウィストリアは人間全員を保護し、数年かけて異世界と天空の間に扉を作り眠らせる事に成功した。
そのおかげで危害がいくことは無かったらしが。本当に凄いよな。彼女達は人間だけでなく天使、女神をも互いに恨み始めていた。人間がいなくなっても、争いは終わることなく、死ぬ者まで現れる始末。
いつの日か、女神側の事務は逃げ出し天空の維持さえ困難になった。今では、天空に人間がきても誰も対応せず人間は死んでいくようだ。
「多分、餓死して天国にいったはずだ」
「た………多分?」
で、僕により争いは止められたと
ざっとこんな感じだろう。
「そんな時、君に出会ったのだ。頼む!私に力を貸してほしい」
ウィストリアは深く僕に頭を下げた
「えっと………大体は分かったんですけど、僕は何をしたら?」
「転生を望む者。つまり、転生前者を現実で説得して欲しい!」
「そんな事出来る訳っ!」
僕は死んだ時を思い出した。あの意思は誰にも止められない。誰の言葉を聞いたって例え親友や家族でも、抱えて抱えて苦しくて、たまらない気持ちはどうにも。
叫んだ僕に、ウィストリアは嫌な顔を見せず笑みをみせている。
「大丈夫。出来るさ君なら。優しくて慎重な彩夢ならきっと出来る」
どうして言いきれるんだ!?何も根拠が無いのに。
「………僕には、何もありません。何もないんです。」
僕は心を落ち着けながら、ただそれだけを振り絞り淡々と言いきった。
ガタッ!
「そんな事ない!! なら一度やって、そこから決めてくれ!」
「……っ」
ウィストリアは机を叩き立ち上がった。
「もし嫌になったなら、すぐに異世界へ優先的に連れて行く。君が現実に帰りたいと言えば私はそれを叶える」
「天空にまで来たのは彩夢しかいない。だから、君しかこんな事を頼める人間はいないんだ。だからっ頼む!」
ウィストリアは何度も頼み込む。雫が机に落ちていくのを僕は見てしまった。
「……でも(僕に力なんて)
「君には才能が力がある! だって、色々と私を助けてくれたじゃないか。」
「それは」
「そんな君だからこそ頼みたいんだ。」
「……っ」
はっきり才能がある。なんて言ってくれる人は初めてだ。才能。今になっては毒のような言葉だが。
彼女は僕を信頼している。
どうしてそんな目で僕を僕は綺麗な人間じゃ。
(でも……)
その時、やってみてもいいのでは?と不意にそんな考えが脳裏に浮かんだ。1度死んだ人生。最後に変に足掻いてみるのも悪くないのては?
なら、僕は
才能も何もないこんな僕でも
ウィストリアの姿が僕の瞳に映る。
(彼女は、僕を信じてくれるのか)
誰かに信じられるのは久しぶりかもしれない。
………僕も彼女の言葉を信じてみよう。それに助けて貰った恩もある。
「分かりました。手伝います!」
僕はウィストリアの手をとり頷いた。
「本当か!? ありがとう、彩夢っ!」
ウィストリアは僕の手を握りしめた。
しかし、ここから僕はどうなるのだろうか?
無いはずの将来が、黒い世界が、僕の心の中で色付いていくのをほのかに感じた。
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