第4話 おにぎりと不穏
ウィストリアは少し分が悪そうに僕をみつめてくる。
「彩夢……生きたいか?」
「えーと、自殺した僕がいうのも何かあれですけど。こんな所で死にたくありません。まだ生きていきたいです」
僕は幸せになるために死んだんだ。ここまで来たのに、殺されて終わるなんて絶対に嫌だ。
「なら、私が言う言葉全てに肯定的な返事をしろ。言わなかったら死ぬぞ?」
彼女の余裕が無さそうな表情が僕の不安を煽る。遠回しな言い方だが他に方法がない以上ウィストリアに賭けるしかない。
「分かりました。」
「よし、私から絶対に離れるな」
ウィストリアは僕を肩に引き寄せ、声を出す。
「私はここに居る! 人間も一緒だ!!!」
ウィストリアは大声をだすと、こちら側に迫る足音が速く大きくなってくる。
「随分正直な事ねぇ。死ぬ準備は出来てるのかしらぁ!」
1人の女神が笑いながら先頭を歩きそこからズラズラとやってくる。女神だけでなく、天使もいるようだな。
ざっと1000近くか。
「私の話をきい」
「まずは人間を殺せ!!」
「続け!!」
「待て、私の話を」
ウィストリアが言葉を出す前に、女神の命令と共に魔法が飛びだしてきた。
これ本当に大丈夫なのか?
とんでもない数だし、当たったら即死だろうな。もう色々ありすぎて生きている心地がしない。
「仕方ない。テルーア」
ウィストリアはすぐ様、魔法書を開きバリアを展開する。
――ガッ!……シュ…ュ…
魔法は僕らを包んだ空間に当たると蒸発するように消えていった。
「マヒット!」
魔法書はパラパラと、ひとりでにページを変え、黒い雷雲を彼女たちの頭上に作りだす。ゴロゴロと鳴り響き、上から女神達をめがけ電撃が直撃する。
ドン!!!!
「きゃああああ!」
彼女達の上は、がら空きだというのをウィストリアは見過ごさなかった。ドミノのように後ろへ後ろへと感電し、女神天使がバタバタと痺れながらに倒れていく。
それにしてもこの威力とは。あまりに強すぎないか?
「っ!」
目の前の雷にびっくりしたせいで、僕はいつの間にかウィストリアにしがみついていた。
「あっすみません。」
僕は謝り手を離す。
ウィストリアはそんな事を気にする様子はなく、ピリピリとしていた。
「話を聞く前に攻撃をするな! そこで大人しく私の話をきけ! いい加減、事務の手を増やすな!!!」
バキッ!!
飛んできた剣を真っ二つにして叩きつけた。女神や天使は呆然としている。
「これ以上するなら容赦はしない。最近、黙っていたが……私は事務だ。わかるな?」
「はっ…はい……」
(あれで容赦していたのか?)
この人だけは、怒らせたら駄目だと僕は確信した。
「いいか聞け! この人間は神が選び、現実世界から役目を受け呼び出された救世主だ。」
ウィストリアはビシッと指さした。えっ?ん??
僕?
「この人間により転生を試みる人間は減り、我々は休息を得れるようになる!」
ちょっと待ってくれ。一体何をいってるんだ?
「それはっ本当なのですか?!」
1人の女神が僕を泣きそうな顔で聞いてくる。
えーと。僕が視線を逸らそうとすると、ウィストリアは僕を叩きムッとする。
「はっ…はい!そうです!」
言ってしまった。生きるためだとはいえ、なんかとんでもない事に巻き込まれた気がする。
「我々は今日を持って争いは終わりとする。そして、彼を見守り様子を見る。 それで構わないな?」
「はっ、はい…申し訳ありませんでした。人間様。」
1番先頭にいた女神は大人しくなり僕に頭を下げてきた。
「いぇっ、やめてください」
どうしよう。これからどうなるんだ? やばくないか? 僕はそんな事をグルグルと脳内で考えた。何も答えは出ないが。
「彼の名は彩夢だ。皆決して危害を与えぬように」
「はい、もちろんです」
皆ボロボロになりながら同じように頭を下げ始める。
「いや、その……やめてくださいっ」
僕は見た事が無い光景に戸惑った。そして、脳内は混乱が渦巻いている。この状況はまずいな。
「うっ…う…」
僕が絶体絶命のような気分になっていると、1人の天使が泣き出した。それにつられるように他の人も泣き出す。
「やっと解放される」
「辛かった…」
「うっ…うっ…」
「いい人間も…いるのね…」
「ごめん…うっ…なさい…」
こんなことになったのにも、何か訳ありなようだ。
僕がウィストリアの顔をみるとホッと胸を撫で下ろしている。
助かったといえば助かったんだがさっきの話は。
「では、我々は現実世界に行ってくる。必ずや転生者を減らして見せよう!」
「はい!行ってらっしゃいませ彩夢様! ウィストリア様、ご活躍願っております。」
女神や天使が泣きながらに頭を深く下げる。そして、ウィストリアは僕をどこかに連れて行く。
「はい! はははっ……ん?! ぇぇえええええっ…んぐっ………ん」
ウィストリアはパニックになっている僕の口を抑えた。
「静かにしろ、すまなかった。後で説明するから。」
「ごほ……っ説明っしてくださいね」
僕達は小声で話しとりあえず和解する。ウィストリアについて行くとさっきの町に戻っていた。そのまま城に入っていく。
「手に捕まってくれ」
僕は混乱しながらも、とりあえず手を握った。
ウィストリアは翼を広げ、飛ぼうと姿勢をさげ飛び上がった……が
「あれ?」
ウィストリアはポカンと翼を見つめていた。
翼が羽ばたかせようとしているが動いていない。そういえば。あの時折れてしまっていたな。
「大丈夫なのですか?」
1人の天使が不安そうに彼女に聞いた。僕達を見送ろうと、ぞろぞろ跡を付けてきたようだ。
「いやっ、あのーその」
ウィストリアは明らかに困っていた。表情を見るに魔法で治せないらしい。なら、翼を直さなければ。でも、どうやって?
僕の記憶に何かヒントが
(木の枝とつるを探すんだ!)
「――!!」
僕はその時、サバイバル番組を何故かを思い出した。
足の骨に棒状の木とつるで固定。そうか、羽も骨と同じだと見なせばいい。
「あの、細長くて丈夫な棒はありませんか?」
「少し待ってください」
声を出したのは、さっき先頭にいた女神だった。
「私の槍なら………その…戦いで刃が無いのですが」
「いえ、その方がありがたいです。」
僕は棒を受け取り、リュックからテーピング入れを取りだした。周りは、見た事がないのかザワザワと囁く声が聞こえてくる。
「ウィストリア様、少し触りますね」
「大丈夫だ……すまない」
僕は翼に棒をあてテーピングでクルクルと巻いた。骨の代わりにして空気抵抗があっても折れないように補強する。
思い浮かんだ映像は、足を折れた男性が木の棒を足につけ、つるを巻き付けて歩いたものだった。今回だけは、運がいいな。
「凄いなっ………これっ」
翼が思うようにバサバサッと動いた。
「「ぇ……」」
ウィストリアも天使、女神も皆驚いていた。
陸上部たるもの、自分の怪我はある程度自分で対処出来るようにした方がいい。そう先輩に教えられ、テーピングと技術は持っている。
「ありがとう」
「いちよう応急処置です。後でしっかり治してくださいね?」
「あぁ」
ウィストリアは微笑み、僕にもう一度手を差し出した。僕も笑みを見せながら強く握る。
「行ってらっしゃいませ
女神や天使が頭を下げると同時に、翼を地面に叩きつけ一気に上に登った。景色が一瞬で変わっていく。
「っ!」
凄い勢いだった。落ちないように僕は両手でしがみつく。
この距離は確実に死ぬ!
そんなことを考え始める頃には、既に頂上にきていた。
「――。」
さっきはあまり見えなかったが、美しい景色に目をうばわれる。しかし、感動する暇も無くウィストリアの手に引かれた。
屋上の中心には薄れた大きな魔法陣があった。これもさっきは見えなかったな。
「よし」
ウィストリアは魔法書を開いた。
「行くぞ!ザッグルニア・ガーナトル!」
ザアアアアアッ
そう叫ぶと、下から風が吹き荒れた。意識が上に上がっていく感覚を、必死に耐えながら目をつぶる。
………
いつ頃目が覚めたのだろうか? 僕は目を開けると辺を見回した。
見覚えのあるコンクリート。騒音を奏でながら走る車。ザワザワと響く人の声
「…ぇ?」
僕は何度も目を疑った。目を開いては開け、何度も何度も見渡した。
嘘だろ
「……」
ここだけは僕でもちゃんと知っている。だって
紛れもない現実の世界だから。
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