第79話 世にも珍しい、自身の実況見分と事後処理

 目を丸くしていた、神地さんが口を開く。


「いやあ。勝政さんが、こちらに来たのは。村の入り口で、長尾さんに聞いたので理解はしていましたが。来た早々。美女を二人も侍らすとは。素晴らしい」

 そう言ってパチパチと拍手する。無論顔は、目尻を下げ。満面の笑み。

 いわゆる、げすな顔というやつ。


「いやあ。からかわないでくださいよ。まあ、こんな事になっちゃいました」

 そう言って、神地さんに笑顔を見せる。


「まあ。今後の話も含めて、一杯行きましょう」

 そう言って、家へと入る。


 居間で落ち着きながら、適当につまみ。酒を飲む。


 ある程度、事の顛末を神地さんにも話をした。

 明日帰るときに、連れて帰ってもらい。今、自分がどうなっているか見たい。

 それと、職場への説明と。引継ぎ。最近発足した、特別機関異世界対策室の担当者を交えて、行いたいことを伝える。


「そうだね。特殊さでは、第1号事案だね」

「それと、村長から。外務大臣を仰せつかったので。その任について、説明を行いたいと思います」

「若くなったからと言って、あんまり無理をすると。こっちでも死んじゃうよ」

「脅さないで、くださいよ」

 そう言って、2人は笑う。


 いい加減会話しながら飲んでいたので。

 しびれを切らせたのか。成瀬さんと加瀬さんが、催促をしてきた。

「ねえ佐藤さん。もう良いでしょう。あれ頂戴。料理はするから」

 こう聞かれると、やばいものの様だ。


「本気だったの? なら、勝政さんに、きちんと話をしないと」

「うーん。そうねえ。勝政さん。私たち、元女子大生で、今もそのくらい。こっちでは年寄りの部類だけど。どうです? 付き合ってくださらない?」

「私も。合わなくって、ポイされても文句言いませんから。もちろん一緒に暮らしてくれるなら。そっちの方がいいけど」

 そう言って、2人にお願いされる。

 詰め寄られて、あたふたする勝政さん。基本まじめだから。


「まだ、知り合ってすぐ。まだ素性もよくわからない。私なんかと?」

 成瀬さんがチッチッチッと、人差し指を顔の前で左右に振る。


「よく知り合うのに。順番は関係ないじゃない。たまたま。今日、海の村に来た。そして、話をした。それで、十分でしょ。それに、さっきの話を聞いて、失恋の傷を埋めるには。新しい恋で埋めるのが一番。心も体も。ねぇー。しっかり埋めてくれれば、お互い気持ちも良いし。いやな事もきっと埋まるわよ」

「下ネタかよ」

 思わず、突っ込んでしまった。


「良いじゃない。勝政さんどう?」

「確かに。あの状態でなら、細かいことは気にしていられなくなるな。僕は今晩。ねねの集落へ行って、明日の朝迎えに来るよ。じゃあ御馳走様、佐藤君」

 そう言って、神地さんは逃げるように。行ってしまった。


「どうしよう。佐藤君?」

「いや、僕に振られても。彼女たちの言い分も一理ありますよ。僕は向こうで死んで。付き合っていた、香織と会えないと思うと。落ち込みましたからね。その後は、みゆき達のおかげで、それどころじゃなくなって。気にならなくなった。だけど、僕の場合。彼女がこっちに来た時に。妙な覚悟を、決める必要がありましたけどね」


「そうだな。一人だと、余計なことを考えるかもな。向こうの人生では、一切なかったことを。試すのもいいかもしれないね。お二人とも。ありがとう」

「なんで、お礼なんですか?」

「そりゃあ。新しい自分の生活。その第一歩、その背中を、押してくれるから?」

「なんで疑問形何ですか? 勝政さんて。面白い人」

 などと言って、あのブツを出す。

 うちの娘達も、でてくるよね。



 朝。ヘロヘロになった勝政さんが、部屋から出てくる。

「おはようございます。いや。あれ。すごいんだね。食べたせいか。俺もびっくりするくらい。強かったけれど」

「それもあるけれど、魔力の循環が、スムーズになっていますね。こっちへ来て、ある程度。修行をしないと。最適化をしてない人で、そこまでスムーズにコントロールできないのだけどね」

 それを聞いて、びっくりしているようだ。


「最適化すると、もっと強くなるの?」

「ええ。まあ」

「ふーん。それなら、複数も納得だ」

 そう言って、にこにこしている。少しは吹っ切れたか?


 そんなことを言いながら、朝食の準備をしていると。

 なぜか、ねねを連れて、神地さんが帰って来た。

「おや? ねね。久しぶり」

 そう言うと、やはり片膝をつき。首を垂れる。


「いや。挨拶は良いから」


「はっ。りりは、お役に立って、おりますでしょうか?」

「うん。大丈夫だよ」

「それは、何よりです」


「じゃあ。ご飯を頂いて、向こうへ帰ろうか?」

 ワイワイと、朝食を食べていると、成瀬さんと加瀬さんが、でてくる。

「務ちゃん。いない間にお姉ちゃんたちが、村長に家を聞いて来るからね。佐藤さんメンテンスよろしく」

「そうなったんだ。わかったよ」

 勝政さんが、赤くなっている。


「じゃあ行くよ。ねねは、佐藤君の家に居てね。数日で戻って来る」


 そう言って、ゲートへもぐる2人。

 俺は、勝政さんの家を用意しよう。




「どわー。向こうにいると、気にならなかったけれど。目線が低い。違和感があるよ」

 いま。神地さんに連れられ、家の前。ドキドキする。ドアノブを引っ張ると。やはり開いていない。

「中に、入れますか?」

 ゲートを、つないでもらう。


 中に入ると、糞尿の匂いがする。

 人が死ぬと、筋肉が緩むので、どうしても漏れ出してしまう。


 ダイニングに行くと、俺が居た。

 だが記憶と違い。

 苦しんだ感じがある。

 テーブルの上にあったはずの、グラスなども落ちている。


「必要な所へ、連絡するか。病死だけど。家だから、解剖が入るな」

「どうでしょう? その辺りは、話次第では?」

「まあ。本人が居るしな」


 特別機関異世界対策室が間に入ったためか、非常に速やかには終わった。しかし、うちの親への説明の為にも。法医解剖が入る。あらかじめ、既往歴やカルテも頼んで、出してもらっていたので、すぐに終わった。


 本人の証言で、急な意識の消失があったと説明したら。医師から怒られた。


 生き返った、本人に小言という。荒唐無稽な話だが。

 異世界対策室の計画グループに、医師も入っているらしく。

「見事に脳梗塞。……だね。身近に誰かが居れば。死ななかったのかもしれんが、まあ不摂生。高HbA1c(糖尿)、高血圧、高中性脂肪。不健康まで3高だね。うらやましいことに。今回、たまたま繋がった命なんだ。向こうじゃ、健康に気を付けてね」

 そう言って、にらまれた。


 ここには、すでに、うちの親もいて。

 俺の横で、苦笑いだ。

 元妻の顛末や、これから別の世界で生きていくが、たまにこちらへ来ることも伝えてある。

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