第78話 驚愕(きょうがく)の神崎さん

 とまあ。

 勝政さんと、飲みながら話をして、事の顛末を聞いた。


 がっつり、関わっているな。

 やはり、シーサーペントの肉は危ないが。

 そうか、それが無ければ。離婚をしておらず。

 奥さんが、いや元奥さんが喜んだだけ。

 それを考えると、いい仕事をしたのか。

 道具は使いようだな。



 次の朝、勝政さんは感動していた。

「みんなで食べる朝飯は、いいなあ」

 そんなことを言いながら。3杯もお代わりをした。


 その後。村長の家へ行き。事の顛末を説明する。

「いやあ。こんなことも。あるんだね」

 そう言って、目を丸くしていた。


「こちらに住むことになったら。家はあるので。適当に住んでもらって、肩書は外交官いや外務大臣か?」

 そんなことを、村長が真顔で言う。

「ありがたい。大出世です」

 笑って、勝政さんが答える。


「現状、無給ですけどね」

 そう言ったら、みんなが大笑いした。


 帰り道。

「いやあ。体は軽いし。ご飯もうまい。みんなは気心が知れて、暖かい。ここは、いいなあ」

 言葉ではそう言っているが、長年一緒にいた、奥さんに裏切られた思いが強いのか、横顔が寂しそうだ。


 対処の方法が思いつかないので。

 とりあえず、組みあがった発電機を見せてみる。

 そうは言っても、前回と同じものが、3台になっただけ。


 なのだが。それを見た瞬間。

「ふおーお。3台供ですか。向こうの会社の倉庫には、3台返ってきてもいいように、スペースは開けていると言っていましたが……。 いやあ、佐藤さん。さすがです。向こうも驚くでしょう」

 そう言って、俺の手を握り。ぶんぶんと上下に振って来る。


 うん。仕事馬鹿だな。

 落ち込んでいた顔が、キラキラになっている。


「何か、食べたいものは、ありますか?」

「やはり此処は、魚介系ですかね」

「じゃあ。海の方へ行ってみますか?」

「はい。行きます」


 トロッコに乗って移動していく。

 なんだか、目がキラキラしているけれど。乗ったことがなかったか? 

 そうか、案内したのは。国見さんたちで。

 勝政さんは、キラキラした本州の東北側。虐殺現場だけか。


「窓から顔を出すと、危ないですよ」

「いやあ。こういうのは。やはり気持ちが良いねえ。電車は、スピードが上がって。危険防止から、嵌め殺し窓ばかり。やはりさみしいね。おっ、潮の香りが、し始めた」


 ニコニコしながら、景色を眺めている。

 だが、目ざとく見つけたようだ。

「佐藤さん。あそこに浮かんでいる。物騒な、黒い船は何ですか?」

「あれは。わが村の戦闘船第1号です。海に結構な強さを持った。モンスターが居るので。退治用に造ってみたんです。双胴船で、真ん中に揚陸用のホバークラフトを搭載。甲板部分には、前に2門。後部に1門の魔道式超電磁砲を搭載。砲弾を、魔法で防御することで、射程距離は500km位いけるのですが。星が丸いので、うまく当たりません。それと、冷却時間が必要なので。6連タイプの砲塔です。あとは、僕が空間魔法を覚えたので。射程は、水平線に合わせて16kmと短いのですが。空間切断砲を装備しています。今は、丸く抜いちゃうタイプなので、平面に切れるよう。改造中です。くり抜くと、可食部分が減っちゃいますからね」


「可食部分ですか?」

「ええ。勝政さんも神崎さんに貰って。シーサーペントを食べたのでしょう?」

 そう言われて、ブロック肉を思いだす。

「あれ、モンスターだったのですか?」

 そう言って、複雑そうな顔をする。勝政さん。


「おいしかった、でしょ?」

「確かに、おいしかったのですが。そうですか」

「大丈夫ですよ。男には、影響がないので」

「男には?」

 しまったとは思ったが、村に居れば知ることになる。言っておこう。


「あれを、女の人が食べると。催淫作用があるらしくて。朝まで、元気になっちゃうんです。現在。希望する女の人だけに、渡しています」

「そうだったのですか。それじゃあ。あれを貰って、食べさせたから。妻の不貞が分かったと」

「そうですね。勝政さんが死んじゃったので。そのままだと、奥さん大喜びだったのじゃないですか?」

「おおっ? それを考えると。これ以上ないタイミングで。すべてが回ったことになりますね」

「多分。女神が、何かをしたのだと、思います」


「女神が?」

「ええ。起こらないはずの事故が起こったり。色々とあるんです」

 そう言うと。

「ひょっとして、此処と関わっていたから、私が死んだとか?」


「すべて推測です。あり得るのか。それは不明です。ただ、こっちに来ましたからね」

「まあ。私としては、血糖や血圧。中性脂肪などが、毎回引っかかっていましたから。リスクはあった。それが、若返ってこちらに来れた。まあ良いことだと。納得しています。外務大臣になったし」

 そう言って、笑った。


 村につくと。ちょうど、網を引き揚げていた。


「やあ。佐藤さん」

 手を振りながら、内村さんが声をかけてきた。


 近寄ってみると、まだ網は、半ばまでしか上がっていないようだ。

「これは、地引網ですか?」

「そうです。この前のシーサーペントの一件で。控えていたのですが。さすがにもう良いだろうと。網を入れてみました」

「そうか。だいぶ浮かんでいましたものね」

 毒の影響が、どこまであったかは不明だが。もう一週間以上、経つのか。


「手伝いましょうか?」

 勝政さんが、そう言って引き子に混ざる。


 30分ほどかかって、網を引き揚げた。

 網の中を見ると、結構な量が入っている。

「おう。良いんじゃないか」

「そうだな、毒の影響はなさそうだ」

 そんな声が、其処いら(そこいら)で聞こえる。


「すみませんね。今度から気を付けます」

 そう俺が言うと。

「ありゃ。佐藤さん。あんたのせいじゃないが。魚が浮いたのを見たから、やはり心配でね」

 周りが、気を使ってくれているのだろう。もう一度。頭を下げる。


「その人は?」

「昨日来たのですが。元々神崎さんの力で、この村に来ていた勝政さんです。若返って来ました」

「あらまあ。事故かい?」

「いや。多分病気です」

「そりゃまあ。大変だったねえ」

「いや。若くなって、やり直せるので。万々歳です。勝政務(かつまさつとむ)です。よろしくお願いします」


「ようこそ。はじめての村へ」

 そう言って、拍手が起こった。

「手伝ったんだ、分けてあげよう」

 そう言って、鯛やら鯖やら分けてもらった。


 お礼を言って、その場を後にする。

 魚処理場の方へ向かい。

 貝類がないか。見に行く。


「あっ。佐藤さんだ。その人。新人?」

 声をかけてきたのは、いつもの成瀬さんと加瀬さん。


「お世話になります。勝政です」

「勝政さんは、経産省のお役人だよ」

 そう説明すると、2人の目が光る。


「来たばかりというと、フリーですよね。私どうですか?」

「いや。私でしょう?」

 なぜか、取り合いが始まった。


「どうしたの?」

 そう聞くと、二人はもじもじしながら、説明を始める。

「前回のシーサーペントの一件以来。おうちの中を区切られて。瀬戸ちゃんが、セラに近付けさせてくれないの」

 ああ、あれにやられて。襲ったのか。


「シーサーペントは、色んな所で、騒動を起こしたようですね」

 ため息をつく、勝政さん。

「そうだね。でも、あれ食べて。思いっきりエッチすると、体の調子がすごくよくなるのよね」

「エッチできればね。私は蹴られて、翌朝。腰が痛かったわよ」

 成瀬さんは、瀬戸さんに蹴られたのか。


「ねえ。佐藤さん、あれ頂戴」

 何かの中毒の様に、迫ってくるふたり。

「やってもいいけど。俺は相手できないよ。勝政さんにお願いして」

 そう言うと、二人が飛びつく。

「えっいや。自分はしかし」

 勝政さん。慣れていないのか、テンパっておかしくなった。


 結局二人を連れて。家へと帰る。

 すると、目を丸くした神崎さんが、うちの玄関先に。呆然と立っていた。

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