第72話 キラキラだけど、仕事の早い勝政さん

 神崎さんが勝政さんを連れ帰った後。


 その日は特に騒動もなかったが、次の日の夕方。

 神崎さんが、奥さんを連れてやって来た。


「勝政さんが、ノリノリでね。企業さんに提携を持ち掛けて行ったらしく。今度は企業さんがノリノリで。それならこれをと持たされた。火力発電用だから大きいよ」

「ノリノリですか?」

「そりゃそうだろう。魔石を供給できるのは日本だけ。完全とは言えないが、CO2も出さないクリーンエネルギー。魔石の出どころで、モンスター愛護協会でも出てこない限りは、大丈夫だが。出てきても、ここへは来られない」

 

 村の外れに、発電機を出してもらい。壁で発電機の周りを囲う。


「しかし。お疲れ様ですね。こんな時間に」

「いや。朝から起こされて、向こうは昼にでた。そしたら、こっちが夕方。俺たちが帰ったのはいつだい?」

「昨日の夕方。いや3時過ぎかな?」

「微妙に、時間の流れが違うのかな。早くなったり、遅くなったり。まあ困らんか。時間厳守はできないと、日本側にも言っておこう」

「珍しく奥さんまで連れて、どうしたんですか?」

「そうだ、佐藤君。海鮮と日本酒を所望する。奥さんに勘ぐられて、白状しちゃった。そしたら、ずるい。私も食べたい。と言われた」

 そう言って、申し訳ないと頭をかく神崎さん。

 神崎さんの後ろでは、水希さんが満面の笑みだ。


「そうですか。一度家へ帰って、獲りに行くか」

 二人を連れて、家へと帰る。


「ただいま。お客さんだよ」

「はーい。お帰り。あら、いらっしゃい。神崎さんと水希さん」

 香織が出てきた。

「おれは、ちょっと、海の村へ行って来る」

「行ってらっしゃい」


 そのままゲートをくぐる。

 村へ着くと、内村さんの家へと向かう。

「こんにちは。内村さん。いらっしゃいます?」

「はーい。あっ佐藤様」

 そう言って、ららが跪く。


「ああ。立ち上がって、ららさん」

「失礼いたします」

 と言って、立ち上がってくれた。

「内村さんは、今どこにいらっしゃいます?」

「今は浜の方で、今日の収穫物の選別作業と下処理を行っているはずです」


「おっとそうか。それは急がなければ。じゃあ行ってみるよ。ありがとうね」

 そう言って、家を後にするが、ずっとこちらに頭を下げている。

 慣れてくれないなぁ。


 作業場へやってくると。ワイワイと、声が聞こえる。

 扉を開け。

「こんにちは」

 声をかける。


「おお。誰かと思えば、佐藤さんじゃないか」

 口々に挨拶が帰って来るが。一人跪いている。

「せら立ってくれ。跪いてもらわなくても、大丈夫だから」

「はっ。では失礼いたします」

 そう言って、立ち上がる。


「今日は、どうしたのですか?」

 成瀬さんが、背中側から張り付いて来た。

「神崎さんが、奥さんを連れて来たから、おかずになりそうなものを貰いに来た。何かいいものある?」

「焼いて食うなら、これだな」

 氷が敷き詰められた木箱に、サザエやらアワビ。タコやイカ、ホタテもうなんでもあり。

 もう一つには、20cmくらいの鯛や 100 cmくらいの太刀魚。

 その奥側には、箱いっぱいのシャコだな。

「シャコすごいね」

「ちょっと沖合の、20m~30m位の所へ網を入れてみたら、大量に入った。一緒にホタテも入っていたよ」


「海底を何かが、かき回したのかね」

 そんな話をしながら、良さそうなものを収納していると。

「ズン」

 という音と。

「キシャ―」

 という声。


「何かが、海底を掻き混ぜたみたいと言うのは、当たりだったようですね」

 建物から出て、海側を見る。すると、なにかでっかいのが居た。

 ウミヘビみたいで、細長いが。顔だけで7m~8mはある。全長はどのくらいか、想像がつかないな。


〈あれは、なんだ?〉

 周りの妖精に聞いてみる。

〈シーサーペントだよ〉

 水の妖精が教えてくれる。

〈倒していいの?〉

〈いいよ。単なる魚だから〉


 そんな問答をしていると、こっちに向かって水魔法で水流。

 それも直径3mはありそうだ。

 魔力に干渉をして、途中で魔法を散らす。


 逆にこちらから雷を送り込むが、魔法の水は純水に近いようで通電しない。

「どうしようか?」

 考えて、氷でできた槍の雨を降らせてみた。

 外れても、海水温が下がる。


 向こうも、俺の魔法に干渉していたようだが、徐々に動きが悪くなってくる。

 あっそうだ、範囲を限定して。

「空間をずらす……。 どうだ……」

 その瞬間。こちらへと撃たれていた魔法が止まり。シーサーペントの首? が落ちた。慌てて、指定して収納する。


 亜空間収納庫の中を確認して、魔石だけを抜き出す。

 直径30cmくらいありそうだ。これは、勝政さんに。良い土産ができたかもしれない。


 ちなみに、妖精たちにシーサーペントって食べられるの? と聞いたが、知らないきゃはは。と言われた。


 ちょっとだけ取り出すと、切断面はきれいな赤身。血液はなんだかいろんなものが混ざっているが、毒がありそうな気がする。なぜわかるかというと、さっき戦った海域に、魚が浮いて来たからだ。

「やっちゃったな」

 その光景を眺めて、ぼやくとみんなにジト目でにらまれた。


 血を抜いて、身の部分を少し取り。炙ってみる。

 匂いはすごくいい。軽く塩コショウを振って食べる。


 極上の豚肉? 甘味はあるが、しつこくはない。これは油の味か? 身自体は味としては淡泊な感じで、照り焼きとかが合いそうだ。


 周りは、俺の反応を見て固唾をのんでいる。

「どうですか?」

 村人が聞いてくる。


「油分は甘味があっておいしいし、身の方は淡泊だから。鶏肉より豚肉に近い感じかな。毒は今の所。体に異常はなさそうだから、食べられそうだね。蛇とか鳥よりもやっぱり上等な豚肉っぽい感じ。照り焼きとかで食べると。うまそうだよ」

 なぜか周りから。

「「「おおっー」」」

 と歓声とも、どよめきともとれる声が上がる。


「明日にでも、これで宴会をしようか。今日は、これだけ渡しておくよ」

 そう言って、一辺30cmの正六面体ブロックを出して、浄化してから、村へ残す。代わりに海産物をもらって帰ることにした。

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