第60話 話し合い

「はじまりの村へようこそ。神地行人さんと、水希さん」


「いえ。これはご丁寧に。ありがとうございます」

 出されたグラスと、浮かんだ氷に驚いたようだ。


「今回。ねねたちの村へ、偶々行ってみたのですが。村が村となっていて。急な発展に驚いたのです」

「少し前まで、服も着ていませんでしたからね」

「ええ残念です。はっ」

 水希さんに睨まれる。行人。


「残念だったんだ。まあ。あの容姿で、服を着ずに歩いていれば、うれしいわよね」

 水希さんが、ブチブチ小言を言ってくる。

「あなた。それに確か、ねねさんと言えば……」


 やばそうなので、助けを出してみる。

「それでですね。そのねねさんに、村でお会いした時。あなたの事を聞きまして。精霊たちに、あなたが現れたときには、ここを教えてくれと、お願いをしたのです」

「そうですか。それでどんな事を? 私に対応が出来る事ならば、良いのですが」


「それを話す前に。少し、この村の説明をしましょう」

 そう言って、神地さんの前にジョッキを置く。中身はビールだ。


 それを見て、ため息。

「長くなるのですね」

 神地さんは、ジョッキに口をつける。


「奥さんは、何がよろしいでしょうか?」

 そういって。皆が、最近はまっている。リキュールメニューを出す。

「じゃあ、このフルーツサワーを、お願いします」


 みゆきがグラスと、簡単なつまみを運んでくる。

 そしてなぜか、俺の横へ座る。


 それを見て。にわかに、台所の方が騒がしくなったが、放って置こう。


 香織もやって来て、座った。


「えーとそれじゃあ。ここにいるのは、お気づきでしょうが。全員日本人です。それも、事故で死んで。向こうでは、僕たちは全員。鬼籍に入っていると思います」


「では、一般的に言われている。異世界転移とも。少し違うのですね」

「そうです。ただ。女神に救済され。人生をやり直す事ができていると言うのとも。少し違って。自分の管理世界が発展しないから、多少強引に。人集めを行っている嫌いもあるのです。門番をしていた長尾さんは、化学の専門家ですが。爆発するはずのない薬品。その混合で、爆発が起こったと仰っていましたし。他にもいろいろと、怪しい所があります」


「むう。しかし。私には、女神を倒すなどと言うことは、できませんよ。そんな力もありませんので」


「空間系の能力は、持っていらっしゃいますよね」

「ええ。持っています」

「向こうへ帰るときに、皆が、手紙をあなたに託したいと言う事と。伝手があるならば、日本との橋渡しをお願いしたいのです」

「日本とですか?」


「ええ。この村が、この状態になるまで、1年以上かかりました」

 そう俺が言うと、久美が話に割り込んできた。


「普人が来るまでは、全然発展ができなくて、大変だったんです」

 村長まで、入って来た。


「私たちが来た時には、単なる小高い丘で。此処に来て、数か月のうちに、4人が無くなりました。何とか、この村を作ったが。田舎の農村状態で7年間。なんとか暮らしていた。すべてが変わったのは、もう1年半も前になるのか。この佐藤君が来てからです」


「それでまあ。色々と発展はさせようと思うのですが、かなり無理があって。本などの情報と、設備。できれば、現物の機器類とかも欲しい所です。此方からは、貴金属や重希土類。一般的には、レアアースなども。資源として、話ができると思います。海洋資源も豊富ですよ」

 そう言って、刺身を持って来てもらう。


 

「まあそれは。祖父の伝手などを使えば可能ですが。よろしいのですか? 此処を、植民地として、扱うかもしれませんよ」

「こちらも、そこそこの力はあります。まあ魔法ですね。あなたのような人たちが、大量に出てこなければ、戦力的には問題はないと思います」


「そうですね。精霊の力を持っているようですし。向こうに帰って。一族と相談をしてみます」

「よろしくお願いいたします。結構旨いでしょう。天然ものですが。黒マグロじゃないのが、残念ですが」

「これは、ここの海で捕れたのですか?」

「ええ。今、ねねさんの所へ、定期的に行っていて。その道中に、漁を行っています」


「他にも、ここの海の村と、西の農地で。かなりの収穫があります」

「思ったよりも、大規模なんですね」

「ええ大変でした。最初はゴブリンのこん棒から、すべてが始まりました」

 俺は少し、遠い目をした。


 そして、

「できれば、非常に図々しい話ですが。あなたの空間魔法も教えていただきたい。当然。良ければの話ですが」


 それを聞いて、行人は精霊に聞いてみる。

 〈どう? 彼はこう言っているけれど?〉

 〈あなたが良ければ、力を貸すわ。この世界の子は、まだまだ力が足りないようだし〉

 〈じゃあ。お願いするよ〉


 神地さんの方から、光の玉が飛んできた。俺は素直に受け入れる。

 そして、頭で。感覚で空間を理解する。


「ありがとうございます」

「凄いね君。精霊の力は便利だけれど、受け入れる人の器には、限界があるはずなんだけど」

〈この子の力は、あなた並みよ。この世界の王になれるかもね〉

〈それは、ぜひお友達になっておこう〉


「あっ、言い忘れていました。ここに女神によって連れてこられると15~16歳にされるので、見た目と歳が乖離をしています。手紙を届けるときに、少しお手数が増えるかもしれません」


「えっ。そういえば、皆が同じくらいの年だね。君も実際はもっと年なのかい?」

「いえ。僕は実年齢がこれです。もうすぐ17歳ですね」

「若いなぁ」

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