第59話 来村者。神地行人

 あれから、村では。

 もう一隻船を作った。


 生け簀と冷凍庫を大型化して、集魚灯装備。

 船側面に網の巻き上げ設備と、後部甲板を低床化してトローリング対応。

 海水だが、揚水ポンプと真水の魔道具による上水設備。

 前後部の上部甲板に一門ずつ魔道レールガンを装備。


 雷魔法は、電位差だけなので直流。

 ローレンツ力による、砲弾発射には都合がいい。

 ただし、砲身が焼けるため連射はできない。

 そのため。直接。雷魔法だけの発射装置も付けてある。

 海の場合。水をかぶると、自分たちも危ないという代物だ。


 砲弾は、某アニメで有名なコインではなく。鉄の砲弾。

 形としては、全長の短い矢で、尖った鏃(やじり)の、すぐ後ろと後部に。矢羽がある。この部分はレールに触れて、通電しないといけないので、鉄にアルミニウムでコーティングしている形にした。


 この形で、マルチ漁船ができたと思う。


 そう言ってお披露目すると、海の村の人たちは苦笑いをしていた。けれど、気に入ってくれたんだよね?


 一応、ソナー? らしきものもできた。

 港で船を浮かべて、海底までの距離を測る。

 音が帰って来た時間で、海底まで15mあるので、それに合わせてメモリを振った。

 帰って来た音の大きさで、対象物のサイズの目安として、光量を変えて光らせることにした。動作は横方向に1列のみなので、船の4方向。斜め下と船首の真下。船尾真下に一つ。全部で6個つけてある。


 最初は、光魔法を使って、見えた映像を投影しようとした。だが、船の艦橋で、床が海の中。そんな物が見えていると、怖いとなったため。シンプルなものにした。

 全方位モニターも、面白いと思ったんですけどね。みんなから、だめの一声でした。


 ただ、遠見システムは搭載して、パネルを付けた。

 対象まで、距離があると魔石を馬鹿みたいに使う。そのため、非常用だ。

 魔石は、人工魔石も作った。


 環境の魔素を、濃縮して結晶化する。イメージは、前回作った、魔石を分けるもの。逆にお願いすると作ることができた。小指大魔石が、1時間に一個くらい。なので、普通の双眼鏡も作った。


 ワニの問題もあるので、緊急ボートとは別に。8人乗りのホバークラフトも載せた。

 スカート部分は80cm。


 走行用ファンは、後部に小型ツインで搭載。ファン後部のフィンと、ファンの回転差。その両方で、進行方向を決める。これを、2台積んである。

 おかげで、船の全幅。12mと全長40mは、前の船より2回り大きくなった。


 本当は、船の後部が開いて、飛び出してほしかったんだが、防水がどうしてもうまくできなかった。そのため。前部甲板にエレベーターを付けて、ウインチで降ろすことにした。揚陸艦は、もしかすると双胴船なのかもしれない。


 そうして、定期便という名の、遠洋漁業船を送り出したり。

 生活の基本である農業をしたりして、半年もたった頃。村に一組のカップルがやって来た。


 今でも、平均すると月一くらいのペースで、新人さんは少数だが。やって来る。

 女神の態度はひどくなり、好きに生きろと言って、放り出されるらしい。

 困ったもんだ。


 例によって長尾さんが、門番兼NPCをしていると。

「精霊に言われて、やってきたのだけど、ここで合っているかな?」


 そう言われて、いつものセリフも忘れ。

「お名前は?」

「神地行人だ。こっちは妻の水希」


 後ろにいた、女の子が頭を下げる。

「きっ。来たー」

 そう叫び。二人を置いて、長尾さんは村長の家へと走っていく。


「あらま。この村で間違いないようだけれど、思ったより発展しているね」

「それに妖精が。そこら中に居るみたい」


「まあ、久しぶりに、ねねの村へ行ったら。壁はできているし、家に住んで。みんな服を着ていてびっくりだったけど。いきなり名前を呼ばれて、振り向いたら。ここの精霊に、この村へ行けと、座標を念話で投げられたのは。びっくりだよ」


「さっきの人。日本人だったみたいだけど。この村全員が、空間系の能力者じゃないわよね?」


 行人は少し考えて、返事を水希へ返す。


「さすがに。それはないだろう。服も既製品じゃなさそうだし」

 そんなことを言っていると、さっきの人が、もう一人若い人を連れてきた。


「はあはあはあ。すまない。私がここの村長。山瀬だ。神地行人さんじゃな?」

「はいそうです」

「精霊の導きで、ねねさんの村から来た」

「そうです」


「長尾さん。普人。佐藤君を呼んで来てくれ。わしの家にな」

「はい」と言って、田んぼの方へ走っていく。


 その頃。

 妖精が騒いでいる。何かあるのか?

 村を俯瞰して、チェックをする。


〈呼んできた。神地行人を見つけた〉

 妖精が教えてくれた。お礼に魔力を分けると、喜んで消えて行った。


「神地行人が来たようだ。みんなはどうする?」


「行く。家族に手紙を書いたの。預けてもらいたい。家に一度寄ってから、村長さんの家に行くわ」


 他のみんなも頷くと。移動を始めた。

「りりは聞くまでもないか。行こう」

「はい」


 そうして、村長の家へと向かう。途中で、長尾さんがやって来た。

「ききき」

 あせって、言葉にならないらしいが、言いたいことは分かる。

「分かっている。彼が来たんだろう。妖精が知らせてくれたよ。ご苦労様です」

 長尾さんをねぎらう。


「皆は?」

「彼に手紙でも預けるつもりなのだろう。家に取りに行ったよ」


「あっ俺も頼もう。ちょっと、家に寄ってから行く。村長に言っといてくれ」

「ああ。分かったよ」


 そうして、村長の家に向かう3人へと、途中で合流した。

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