第44話 暮田(ぐれた)中学高、男子。
みんなが帰った後。
「なあおい。信二。先生とバスガイドさん。変じゃなかったか? 」
「ああっ? そんなもんあれだ。こっちに来て。箍(たが)が、外れたんじゃないか? 体も。先生たちは、若くなったし。たぶん。あの佐藤っていうのと、昨夜なんか、あったんだろう」
サラッと言われて、誠一は、金髪は伊達じゃないなと、感心する。
「おお? お前すごいな」
「いや、エッチした後。大体。あんな顔になるじゃん」
山村誠一14歳。がっくりと力が抜け。板の間に膝と手をつく。……親友に異世界にて、打ちのめされる。信二。
「お前もかぁ」
「本当に。おひとりで、大丈夫ですか? 」
「ああ。大丈夫ですよ。今はこんな見た目ですが、中身は55歳なので。若いころは、自炊もしていましたしね」
高瀬さんは、軽く答える。
「じゃあ。まあ、それなら、これを差し上げましょう」
試作品の炊飯器と、魔道コンロを取り出す。
一応。形として、魔道具の方の炊飯器はできた。
3合炊き。限定タイプ。
「住む家まで、行きましょう。すぐ、そこですし」
高瀬さんと一緒に来て、家を見る。
やっぱり、そうだよね。
人が住んでいる家を、優先的に工事したので。
1年前。以前の家だ。
風呂も、トイレも水道も。明かりも何もない。
「ああ。そうだよね」
おもわず、声に出してしまった。
「これは、完全に。本当の古民家ですね」
きょろきょろと、周りを珍しそうに見ている高瀬さん。
「去年。僕たちが来たときは、これが普通だったんです。朝早くに、水を汲みに。井戸まで行って。その後、湯冷ましを作らないと、水も飲めなくって」
「そうだったの、ですか?」
「じゃあ。あの、佐藤さんの家は? 」
「この1年をかけて、改造をしたんです」
「そうだったんですね。すごいなぁ」
「さすがに、これじゃあ。住みにくいので、工事をしますね」
「お願いします」
しまったな。水道の主管に、分岐用のバルブは付けたっけ?
一度水道を止めるため、村長さんの家に向かう。
「すいません。高瀬さんの家。あのままでは住みにくそうなので、改装したいんですが、水道って10分くらい止めてもいいですか?」
「おお、佐藤君。水道か。時間を決めて……。 そうだな、皆に聞いてみるか」
そのあと村長と、各家を回り。3時くらいが、都合がいいとなった。
お礼を言って、村長と別れる。
先に台所や、ふろ場の改装にかかろうと、高瀬さんの家へと向かう。
高瀬さんと話をしながら、希望を聞いていると。
先日村に来た。男の子二人が、やって来た。
「俺たち。建設関係の事。ちょっとは、親から習っているんで。手伝います」
「ああ助かるよ。ありがとう。ええと、村田君と山村君だよね。よろしくね」
そうして、二人を交えて、作業を開始した。
最初は、かまどの横に台を作り。
そこに、台所のシンクを形造っていく。
水道配管も繋がってはいないが、家の外までの部分は、組み立てて行く。台所から浴室。トイレと順に作業をしていると、二人があっけにとられて、ボーっとしている。
「うん? どうしたの?」
「その、切削作業とか、接続は。すべて魔法ですか? 」
「そう。この周りに、実は妖精が飛んでいてね。お願いして、手伝ってもらっているんだ」
そう言って、妖精たちに魔力を与えると、光というか。存在が増す。
「この光が、そうなんですか?」
「俺には、種類によって、個性的な格好に。見えるんだけどね」
「そうなんですか」
目をキラキラさせている。なんだ、良い子達じゃないか。
村長に言われ。
佐藤さんの作業を、何か手伝えるかもと。
運転手のおっさん家へ、やって来た。
手伝うことは無いかと聞くと、有難いと言われ。
簡単な作業を、手伝い始めた。
でも、なんというか。見知った、親父の作業とかと、全然違う。
さっきから、持った材料が、こんな感じだよねと言うと、その通りに突然切れる。
今度は、そこに合わせて、勝手に金属が錬成? されてくる。
空間から生える感じ。
その時。佐藤さんは。
別に地面に手をつくこともなく、ぼう―っと見ているだけ。
訳が、分からねえ。
台所から、風呂場へ移動してみる。
大きめの瓶(かめ)が、ぽつんと土間の横に置かれていた。
「なんだこれ?」
「これが、お風呂場だよ。水をその瓶に汲んでおいて、体を流すなり。拭くなりするだけ。僕たちが来た、1年前。これが、普通だったよ」
「村長さんの家のは、普通の風呂だったけど、この一年で、これから。……あそこまで変わったのか。すごいな」
信二も目を丸くして、みている。驚くよなぁ。すげえぜ。
感動もつかの間。もっと感動した。
単なる土間が、壁となって持ち上がり。その表面に釉(うわぐすり)か、ガラスのような質感の、風呂桶が出来上がって、生えて来る。
循環式の2口。
焚口は、外にあると教えてくれた。でも、お湯とお水の蛇口が、壁に生えてきたから、焚く必要はないだろう。そう思ったが。
「人数が多い家だと、外で一本薪を焚いておくと、水で温(ぬる)めるだけで、風呂に入れるから。効率的なんだよ」
そう説明しながら、突然笑いだした。
「実は、給湯は魔道具で作っているから。蛇口からの水量と温度が決まっているんだが。使う人たちが、お湯の方は、タンク容量に限りがあると勘違いしてね。あまり使ってくれない。だけど、困るものでもないし。付けてあるんだ。本格的な給湯システムは、以外と難しいし、無駄も多いからね。ちなみにシャワーは別魔道具で、通年40度に固定」
「へ―そんなもの。いくらでも出てくる事は、すぐ気が付きそうだと思うんですけどね」
「そこが人間の難しいところ。こうだと思ったものは、なかなか認識を変えることができないんだ」
「ふーん。面白いですね。俺の連れが、ネット小説を書いていて、何度見返しても。誤字が無くならないって、騒いでいたのと同じかな?」
「そうだね。作者はこうだと思って、文章を書いているから。次に読み返しても。勝手に脳が補正するみたいだね」
「そうなんだ。こっちに来ちゃったから、もうあいつに伝えることはできないけれど。あいつは、読者が力になってくれるから、何とかなってるって言っていたな」
「それは、良いことだね。作者としては、どうかと思うけど」
にこっと、佐藤さんが笑う。これは、この笑顔はやばい。
先生たちの気持ちがわかる。いやだめだ、おれは、ノーマル。
心を強く持とう。
「じゃあ次はトイレだ。きっと、もっと驚くよ」
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