第41話 それは、ある夜の話

 暮田(ぐれた)中学高。2年3組の担任。中村芙美恵、28歳。


 昨日、バス事故に合い。気が付けば、森の中。

 整備された花壇? 芝生? の中で、倒れていた。

 私を含めて、7人。


 そこから、案内板の通りに移動する。

 ちょうど。村では、お祭りみたいなものを、行っていた。


 見た目は若いが、村長さんと話をして。

 佐藤さんのお家に、泊めていただいた。


 家の外見は、一言で言えば、昔の一軒家。


 障子やふすま。

 夜には、板が張られた雨戸を閉める。

 居間の中心には、囲炉裏がある。


 でも。トイレは様式で、便座は暖房付きで水洗。

 お風呂も、蛇口から、お湯と水が出てくる。

 各部屋や、廊下には。明かりがあり。オンオフは、スイッチじゃなくて、魔力をあてると、できると言われ。理解ができなかった。実際見ても、手をかざすと明るくなって。もう一度、手をかざすと消える。


 話を聞くと、洗濯機も一応あるとのこと。


 台所は、土間側にあり。竈が、ドドンと存在を知らしめていた。

 初めて現物を。それも、利用している物を見て、ちょっと感動しちゃったわ。

 今まで、見る事があっても、民族資料館とかで、枯れた物しか見なかったから。


 一応。魔道具コンロとかもあるけれど。ご飯だけは、羽釜で炊いているということだ。


 その夜。さすがに、ご飯は入らなかったけれど、私たちへのフォローか? 運転手の、高瀬さんへの気遣いか。もてなしから酒宴になり。この年の体で、飲んでも大丈夫なのかと、ちょっと思ったが。郷に入っては、郷に従えと。私の心がささやくので、頂いたら。おいしかったぁ。


 日本酒って、今まで。あまり得意では、なかったけれど。軽く、お燗をした。村のお酒。

 淡麗で、でも芳醇。

 おかしなことを、言っているけれど。飲み口は、すっと水のようだけど、口に含むと。お米の香りと、なにかフルーツのような、いい香り。そして、甘味がして、飲み込むと。わずかな甘みがすっと消えていく。フルーツ系の、チューハイの味を膨らませたような。味わい? ああ私。教師なのに、語彙力(ごいりょく)がない。この素晴らしいものを、表現ができない。


 専門が、大体ここにきて、何も役にたてない社会科なんて。……畜生。

 ここじゃあ、役に立たない勉強の、最有力じゃないの。そりゃ幾度も、社会なんて何の役に立つんですか? 幾度も生徒に質問されてきたけれど。この村では小さいけれど、完全な『共産主義』が実現されている。マルクス様が、ブレイクダンスするようなものが、実現されているわよ。まあいつか、役に立つかもと信じておこう。


 私が心の中で苦悩していると、運転手の高瀬さん。

 自分の無力さを語り、みんなに謝って来た。

 確かに事故は、不幸だったけれど。あれは、どうしようもなかったと、私でも思うわ。

 でも、佐藤さんの言葉でびっくり。女神が事故に干渉している? 何それ?


 私も、少し酔っているし、気持ちを吐露してしまった。

 でも、その後。

 生徒達からの告白。聞いてないよ。

 親父がくそ野郎? それなら手があった……? いや。教頭が、黙っちゃいないわね。ことあるごとに、学校に迷惑をかけるな。それが、教頭の真理の主軸だから。

 警察や児童相談所の介入だと、私の評価は最悪でしょうね。

 ははっ。生徒たちの問題も、こっちへ来て解決したし、酒はうまい。異世界最高。 

 体も若返ったし、素直にやり直そう。


 みんなが酔いつぶれ? この子達。中学生だったのに。……まあいいか。

 横の座敷に、布団が敷かれ。村上さんや、宅間さんが寝かされる。

 佐藤さんに、お姫様抱っこされている。

 いいなあ。それと、見た目より力があるのね。


 さっきから、元大人組は、刺身をつまみに飲んでいる。

 おいしいのよ。これが。


 そういえば、寝ちゃったけれど。

 長瀬隆君はじつは4歳。

 こっちに来た時、3歳がいきなり15歳の体になって、大騒ぎだったと。お母さんが言っていた。お母さんが、見た目、完全に同級生というのが不思議。


 静かで目立たないけれど、バスガイドの川上めぐみさん26歳。

 さっきから、すごく食べて、すごい飲んでいる。ストレスがすごくて。その解消?なんでしょうけれど。よく入るわね。

 

 まあ各自。こちらに来たことで、いろんな問題が片付き。良かったと思うことにしよう。そう、話は落ち着き。さすがに、お開きになった。


 運転手の高瀬さんが、男性なので。

 この囲炉裏のある居間に、布団を敷くのかと思ったら、奥側にある部屋を貸してもらうようだ。この部屋は、食事や煮炊きにも使うので、早くから、人が出入りするとのこと。


 おやすみなさいと、布団に入り、数時間後。

 お酒を飲んだせいで、トイレが。……やばい。漏れる。なるべく静かに、急いでトイレへ向かう。

 ふうと落ち着き。漏らさなくて何より。トイレには、明かりが点いていて、よかったわ。廊下にも、薄明かりが点いていたけれど、細かな制御ができないって、言っていたから。別の魔道具かしらね。いろんな制御ができれば、洗浄便座にするって言っていたものね。


 トイレから、廊下に出る。

 台所側へ続く廊下の端に、誰かがうずくまっている? 水音? ちょっと近づくが、気が付く様子がない。

 だれ? あの服は。バスガイドの川上さん? もう少し近づくと、なぜかこの人。廊下でオナッている? 何なのこの人と、呆れていると、かすかに嬌声が聞こえる。

 この部屋からなの?


 でも、人の家で睦言(むつみごと)を覗くなんて、さすがにアウトでしょう。

 川上さんの肩をたたく。その、驚いた瞬間に、達してしまったのだろう。「ああっ」と声を出して、倒れこむ。

「あっ」

 がっくりと、力を抜いて満足そうだけれど。ダメじゃない川上さん……。


 当然か必然か、扉が静かに開く……。

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