第37話 第一回炊飯技術競技会
と、言うことで、『はじまりのむら』炊飯技術競技会を開くことになった。
判定は、出場者が炊飯して。
それを村人が食べて、味を見るというもの。
投票も、出場者全員に対して、各出場者に対応する投票用紙を、各自が一枚ずつ持っている。
つまり。うまいと思えば。出場者一人に対して、一枚は全員に投票ができる。
判定する村人が、全部がうまいと、全員に一票ずつ投票されると、引き分けになってしまう。
結局。出場は各家。一人となった。
当然。俺も出ている。
広場に、この際と言うことで、屋根をかけて竈を15個作った。
ついでに、バーベキュー用の、組み立てコンロも作ったので、並べていく。
やっぱりおかずも欲しいよね。
テーブルと椅子が、並べられて行く。
会場の準備中に。出場者へ一升ずつ米が配られる。選手は、米を研ぎはじめる。
洗米してから、浸水しておく時間があるから、ちょっと早めに作業を始める。
研ぎ方は、大体同じようだが。古くからいた人は、しっかり研いでいるようだ。
今使っている精米機ができる前は、棒で玄米を突いて、精米していたから、よく研がないといけなかった。
そっちの方が、体にはよかったんでけど。
今は、俺が作った圧力式の精米機を、幾度か通して精米している。
おかげで、日本の精米と遜色が無くなった。
圧力式は、シューターと呼ばれる、くるくる回る大きなピッチのネジ。その中を米が、こすれながら進み。擦れあって精米される。
出来上がったものを、幾度か繰り返して、精米を行い。精米度を上げる。
今。村用の精米度は、コイン精米機の標準よりも、もうちょっと、玄米を残してある。
ビタミンB1を、やはり、みんなが気にして、その精米度になっている。
医療体制は、魔法に頼っているから、特に栄養関係は押さえておきたい。
自然物である。柳の葉でサリチル酸を抽出するだけでも、ジエチルエーテルや硫化ナトリウムをはじめ。薬品が必要になる。
さらにそれを、無水酢酸などで、アセチル化をしないと、アスピリンの合成ができない。触媒を使えば、もっと簡単だが。
濃硫酸が必要だったり、その後に結晶化しないといけない。
その辺りは、長尾さんが詳しい。
まあ、光魔法というか、聖魔法は、こうしたいと祈れば、結果が出るので、使いやすい。
ある程度、知識がある方が、効き目が良いようだ。
そろそろ、炭に火が起こされ。みんなのざわめきが、大きくなってきたころ。
本格的に、炊飯に入る。
ところが、周りで肉が焼かれ始まると。みんなが、落ち着かなくなってくる。
そわそわしているが、やはり、みんな弱火から初めて、沸くまで持っていくようだ。
俺の火が、一番強い。
やはり、土鍋での米の炊き方とは、炊き方が違ったのか……。
しかし、肉から出る油が、焦げるにおいが気になる。
今回は、平野につながる森の中で、鹿とイノシシが獲れ。
海との道沿いで、イノシシが獲れたらしい。
当然。海産物や川魚も焼かれている。
こっちは、醤油の焦げるにおいが、暴力的だ。
どうしようもないので、ヤマメの塩焼きを一本貰って来た。
やっと沸騰して。もうちょっとだけ、薪を追加し、火力を上げる。
ここで、見極めを失敗すると。焦げる。
そんな重要な時に、見慣れない顔が、7人ほどやって来た。
村長が、話を聞いているようだ。
しばらく話した後。
なぜか、村長と長尾さんがやって来て、すぐ近くで、どうしようとか、人の方をチラチラ見ながら話をしている。
「どう考えても、人に聞かそうとしているでしょう」
俺が言うと、にへっと、二人が笑う。
「この会に参加させて、こそっと飲ませば、そこで煮えている。貝みたいに口を割るんじゃないですか。安全そうなら、空いている家に放り込んで、ダメそうなら。あっちです。取りあえず。まざれば、ばらけますからね」
などと言っていると。窯から、ピチピチパチパチ音が聞こえだした。やばい。
火を引いて、蒸らしに入る。
火加減の都合で、俺が一番早かったようだ。
村長たちが、こっちに来たので。話をする。
「さっき来たばかりで、素直に案内に沿ってこっちに来たようだ。問題は彼ら中学生のようだな」
「あらまあ。予想外だ」
「あのうち。3人は、運転手とガイドさん。引率の先生ほか、4人は生徒だそうだ」
「じゃあ。危害はなさそうですね。落ち着いてから、運転手さんの保護が必要かな」
「そうだな。気にしておこう。わしらの時みたいに、責任を果たそうと無理をさせて、死なせてもいやだしな」
「一応。事故に対して、女神の介在があった可能性があることを、教えてあげておいてください」
「わかった」
手を振りながら、前の方に出ていく村長。
振り返ると。こそっと、釜の蓋を開けようとする馬鹿者発見。さっきのヤマメの串で、右手を突っつく。
「ぐわぁ」
と、言って。大げさに飛びのく、長尾さん。あれ、串が刺さっている。
「すいません。力加減、間違えました」
「こっちもごめんだけど。ひどいよ」
「はい喋らない。抜きます。はい、ヒール」
見る見るうちに、傷がふさがって、治っていく。
「えらい目にあった」
「蒸らしが始まったばかりの、釜の蓋を開けようとするから。罰が当たったんですよ」
「あの女神からかい? 勘弁してくれ」
「しかし。すみません。手加減してほんの軽く、突っついただけの、つもりだったんですが。突き抜けていましたね」
「こっちからだと、突然自分の手の平に、串が生えるのだもの。びっくりだよ。抜くときの方が、痛かったね」
「すいません。ちょっと、手加減の訓練をします。もう少しで、食べられますから。もうちょっと、待ってください」
「はいはい」
そう言って、手をぴらぴらふって、肉の方へ行く長尾さん。
参った。力加減ができない……。
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