第36話 制御という沼

 炊飯器を作ろう。


 そう思い立ち、考えをまとめていく。

 この村は、一軒の家に共同で暮らしている。それでも一軒5人くらいまでだ。

 ただ体が、若返ったからよく食べる。

「それを考えれば、1升炊きかな?」


 そこで、1合から変化した時の制御を考える。

「炊飯器の炊飯釜。つまり内釜の下に、重さをはかるような機構は見たことがないから、温度の制御となる。当然量が少なければ早くわき、多ければ時間がかかる。これを後の温度制御に反映させるということになる」

 ブツブツと、記憶をひっくり返して、知識を思い出そうとする。


「あのスクラップブックが、ないのが痛いな」

 ぼやいていると、委員長じゃない。香織がやって来る。

「どうしたの?」

「いや、炊飯器の機構。特に制御部分を思い出せなくって、普段使わない記憶は抜けていることが多くて」

 おもわず頭を抱える。


「基本は温度制御でしょう」

 香織がそう言ってくる。「うん」と頷く。

「大昔から有ったんだから、昔はどうやっていたの?」

「最初は、時間がくれば手でスイッチを切っていたはず。その後、磁石のキュリー点いや。キュリー温度を利用した、マグネットスイッチが出てきて。スイッチを切る機能が付いたはず」


「その。キュリー温度って何?」

「どの磁性体にもあるのだけれど、磁石って温度が高くなったり低くなると、磁力の低下が起こるんだ。…… そうか。

 幾種類かの。キュリー温度特性を持つスイッチで、コントロールできるし。作ってみるか。酸化鉄にMn(マンガン)-Cu(銅)系 フェライト磁心で、温度特性が変わったはず。フェライトは、ほかにも使えるし。色々作ってみよう」


 まずは60度付近と、100度よりちょっと上。

 炊き上がれば、水が無くなり、窯の温度が一気に上がるからな。

「それで。香織。どうして、さっきから。人の物をぐにぐにしているの?」

「えっ、寝ないの? それに、さっきから。そのふぇ、ふぇらいとが気になって」

「フェライトって、焼き物で。電気を通しにくい便利な……あっ」


 説明していると、ぱっくり食われた。似た音だが違う。


「しかたないなあ」

 ニマニマしながら、こっちもお返しをする。

「ひゃん」


 お返しに、ぐにぐに、ぺろぺろ、はむっ。とかしながら、夜は更けていく。

 香織は、色々なことに対して、結構怖いもの知らずに挑んでくる。まあ、勝つけどね。


 翌朝、珍しく元気な香織に起こされ、準備をする。

 朝食を作ると言って、張り切っていた。女の子の中で話し合いがあり、俺と一緒に寝た子は、次の日。料理を手伝う、決まりとなったようだ。


 おかずの方を、香織に任せ。

 ご飯を炊きながら、注意深く観察する。

 どう考えても、最初は中火で沸騰させ。沸騰すれば、火加減を弱火に落として15分位炊く。

 中の水が、飛んでしまえば、炊き上がり。後は10分ほど、蒸らせばいい。


 土鍋の炊き方で覚えていたため。

 この方法で炊いているが、ご飯のための歌『始めちょろちょろ。中ぱっぱ。赤子泣くとも蓋取るな』を考えると、弱火で炊き始めて、薪を追加して沸騰までもっていく。沸騰すれば、少し火を引いて。弱火に落として、15分位炊くのが正解か? 米のデンプンがα化するのが60度以上。α化して消化吸収されやすい状態になるから、ゆっくりと、沸騰に持っていくのは、正しいのかもしれない。


 沸騰後に、一瞬火力を上げるため。藁をくべるというのも、追加されている歌もあるし。一度どれがいいのか、試してみる必要があるな。


 基本は、ヒーターへ徐々に電圧をかけて。沸騰すれば弱くする。

 水分がなくなると、窯の温度が跳ね上がるから。ヒーターにかかる電圧をOFFにする。15分ほどしたら、今度は保温用に回路が切り替わり。60度~約75度で保温する。

 それを考えると、保温のコントロールは、バイメタルでも良いかもしれない。でも錆びたり水を使うから、張り付くと面倒だよな。


 こう考えて、まとめると簡単だけどね。なんでもそうだけど。コピー百部なんて簡単に言うけれど、実際作ってまとめるのは大変だよ。母さんがぼやいていたよな。


 よし、きちっとしたご飯の炊き方を知るため。村の中で、ご飯の炊き方選手権をしよう。


 村長に、話をしに行く。


「おお。それは、面白そうだな」

「おかずは持ち寄りで、ご飯の味比べ。米は一種類だから、完全に炊き方の差が出ます」


「賞品を出さんと、いかんな。この村は、いまだに貨幣経済になってはおらんし。なにか、いい物がないかな」

「それも、一緒に募集しましょうか? 一応。人身売買は無しで」

「物騒な話じゃな」

「いや。強制的にあいつと付き合え、とかいう話になると、困りますからね」

「そうじゃな。君の所は、別嬪さんばかりじゃからなぁ。心配じゃろう」


「そういうわけでもありませんが、いくら日本と違うと言っても。無法は困りますからね」

「今までは、生きるのに必死だったが、多少余裕が出て来たしな。ルールの明文化も必かね」

「そうですね。今は変な人は来ていな……い? いや。来たけれど、臨機応変な対応で、何とかしましたね」

「そう言えばそうだった。早急に考えようか」

「それがいいと思います。それで、発表の宴会をするんですか?」

「集めてみて、宴会になれば。それまでだ」


「なるほど」

「この前。造っていたビールを出さんかね。佐藤君」

「それが、狙いでしたか……」

 にんまり笑う、村長。

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