第35話 基準とは
単純に基本というが、再現は意外と難しい。
「最近のメートル原器は、「1秒の299,792,458分の1の時間に光が真空中を伝わる距離」が今日の1メートルの定義となっています。それを再現して計測。それをもとに原器を作ることなど、村ではできません」
「佐藤君、よくそんなの覚えているね」
「雑学が好きだったので」
会話の相手は、長尾さんと葉狩さん。そして、松下さん柳瀬さんだ。まあ村での生産職の面々。
「なので、元の記憶から大体で決めて、それをこの村での原器として、決めてしまえばいいと思うんです」
「とりあえず、決めるのは長さと、重さかな」
「生活ですぐに必要なのはそれでしょう」
みんなが、うなずく。
「あっ、私は温度計が欲しい」
と、長尾さんが発言。
「温度計は、水の氷点と沸点を基準で良いですよね」
錬金で鉄にニッケル36%をまぜ。片側には青銅などを張り合わせる。熱を加えて同じ方向にゆがむことを確認して、バイメタルが完成。
それを筒の中へ、らせん状にして詰め込み。上部に針を付ける。
今はまだ、針の後ろにある目盛りパネルには、当然何も書かれていない。
「はい、長尾さん。テストして、メモリを入れてください。0度側はかき混ぜて、適当に決めてください」
「アルコールじゃなくて、バイメタルなのはどうしてだ?」
「こっちの方が、応用が利くと言いたいのですが。ちょうど発電機を開発していて、その時にバイメタルを作ったんです。エアコンとノーヒューズブレーカー。炊飯器いろんな物の制御に使えますし、もうちょっとすれば、サーミスタも作るのですけどね。そっちは、まともに電気が使えないと、話にならないんで。それで、よっと。はい。アルコール棒温度計。100度までなら、長さが、それだけあれば大丈夫でしょう」
後は、体温計と思ったが、長尾さんのメモリが分からないと、毛細管の太さが決まらないから。後回しだな。あとは0-100度で、バイメタル温度計は、1回転しないことを祈ろう。
長さは、みんなのイメージにある。1mと1cmを描いてもらい、比較して平均値で、メモリを振った。重さも同じ。ただ。重量を決めてはかりを作ると、大体みんなは納得したが、柳瀬さんだけは、
「こんな、はずないわ」
と言って、叫んでいた。
こっちに来て今まで。何年か、はかりがなかったから。ちょっとショックなものを見たのだろう。
長尾さんに、温度のテストをしてもらい。
その間に、メジャーや定規。それとはかりを、いろんなサイズで量産した。
温度計は、やはり調整が必要だった。
アルコール温度計はもう少し毛細管を太くして、バイメタルも螺旋は、もっと短くてよかったらしい。そして幾度かテストをして、まともそうな物ができた。
それに合わせて、体温計も作成した。
液だめ部分と毛細管のつなぎ目を、少し絞ってあるだけだが。
村では、喜んでもらえたよ。
さて、大きく脱線したが発電。よく考えれば、交流モーターって3相が基本で、単相用はコンデンサーが必要だもんな。3相3線式で発電後。トランスで単相3線式にしよう。ざっと説明すると、発電用モーターから、3つの端子。これには3つのコアに巻かれた線から発電される電圧がかかっている。
この3本は、デルタ型と言って、3角形で書かれることが多い。この端子。つまり三角の頂点。各2点から正弦波。つまり交流の周波数の波が120°位相がずれた200vの電圧が出ている。
そいつを一つ。1対1のトランスでつなぐ。すると両端で取ると1対1なので200vになる。トランスのコイル一つは端側。もう一つを中点で取ると、巻き線比が1対0.5になるため100vになる。この3本のケーブル。一セットが、単相3線式と言って、よくある家庭用電源となる。だったはず。
それを踏まえて、適当に錬成し。モーターだけど、発電機を作ってみる。
魔道具に接続して。……先に何か作らないと試せない。
まただ……。
なにが、簡単だろう?
ぶちぶち一人で考えていると、みんなが集まってきて、一度、晩御飯を作ることにする。
鳥ガラスープが残っていて、ご飯の残りもある。
オムライスにしよう。鶏肉や野菜を刻み。鳥ガラスープを入れて、炒める。
その間にトマトを煮込み。塩コショウなどスパイスと、軽くしょうゆを入れて味を調える。
お玉でそのケチャップもどきを、さっき炒めた、ご飯に絡めてさらに炒める。
もう一つのフライパンで、薄焼きの卵を作り、その上にチキンライスみたいなものを適量乗せて引っくり返し、卵で包む。卵は貴重品なのだよ。
ああそうだ。当初の目的であった、炊飯器が必要じゃないか。
よし。明日は、炊飯器を作ろう。
あっ、鶏がらオニオンスープ。
せっかく作ったのに、出すの忘れた。
慌てて持ってきて、配る。
「普人。大丈夫? 疲れているの?」
そう言ったのは、香織だが。みんなが心配そうだ。
「あなたが倒れると、明日からご飯に困るの」
佳奈美が言う。
「そんなことを言っているから、普人が大変なんでしょう。覚えなさいよ」
久美が言う。
「そういや、久美さん料理を作れるのに。作りませんね」
「普人が作ったほうが、おいしいんだもの。自分で作ると、なんだか味気ないのよ」
久美が言うと。
「そうよね。わかるわ」
佳代までが言い出す。
「夜勤で疲れて帰ってきて、何も作る気が起きなくて。お茶づけを作ったのが思い出されるわ」
「それって、何か違いません?」
「お茶漬けは料理よ」
佳代は言うが、みんな心の中で違うと叫ぶ。
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