第34話 村からの希望
ある日、村長に呼ばれた。
「忙しい所。悪いね、佐藤君」
「いやまあ。港の方も、何とかなったので」
「しかし魔法はすごいね。港湾工事と、船一隻。建設と建造を4か月くらいかな?」
「そうですね。ただ、ある程度指定をすると、妖精たちが、勝手にやってくれるところがあるので、楽ができます」
「そうかね」
すごく感心してくれている、村長さん。ひたすらうんうんしている。
「それで、話というのは?」
少し、言いにくそうにしながらも口を開く。
「ああ魔法も便利だが。やはりみんな。慣れた電化製品が欲しいということになってね。無理だろうか? 電気なら、もともと工事をしていた松下さんとかが、力を貸せると言っているんだが」
村長さんは、元々が、小さな村の村長さんだった。
村の慰安旅行で、温泉に行った帰り。山道で、カーブを曲がり切れず転落。
村の人50人と、バスの運転手さんと、ガイドさんが乗っていた。
当然フロント部分が大破して、前の方に乗っていた人たちが、多くこちらに来たようだ。
そのため、こちらに来た時に、農業関係者や大工。電気屋いろんな職業の人が来ている。
村が発展して来て、余裕ができたおかげで、自分の仕事が、何か役にたてることができればと、思い立ったらしい。
設備は作れても、家電品が一切ないんだけれどね。
魔道具で苦労している。細かな制御ができれば、炊飯器が作れるかもしれないし、エアコンもきちんとした物が、作れるかもしれない。
「わかりました。最初は発電機から作製しますね」
「よろしく頼む」
と頭を下げられた。
村長さんの、家を後にしながら、基本構造はすでに思いついている。
起動すれば回り続ける魔道具に、発電機を付ければ定常で回転する。
基本はフレミングの『左手の法則』? あれ? 左は確か起磁力。
起電力と磁界の方向、力だよな?
いや違う、右手は『右ネジの法則』で電流と磁界だから、フレミングは左が『電磁力』で電流の方向、磁界の方向と発生する力だな、『起磁力』が『右手の法則』だ。電磁誘導(でんじゆうどう)による電流の発生だ。いつもわからなくなる要注意だ。
発電機は、永久磁石の中でコイルを回すか、逆にコイルの中で永久磁石を回せば磁束の変化により発電できる。起電力は磁束密度と導体の長さと速度だったな?
そう考えたときに、あれ? 磁束が測れない。電圧が測れない。速度は何とか? いや無理だな、先に計測器で基準を……。 この村、あらゆる基準がない。
家建てたときには、どうしたんだろう?
村長さんの家へと、また帰る。
「すみません。この村に基準の原器ってあります?」
「うん? 佐藤君どうした?」
「この村。原器ってあります?」
「原器?」
「そうです、いろんな基準になるもの」
村長さんは何かを、思い出したようだ。
「ああ、メートル原器とかかな?」
「そうです」
「そんなものはない」
「家を建てたときは、どうしたんですか?」
「大工の木下さんが、尺を決めたので、それを基準にしていたはず。あの棒はどうしたかのう」
ごそごそ探すが、無いようだ。
「今度みんなを集めて、いろんな基準を決めませんか? 僕も色々と物を作るのに現物合わせで、作っていましたけれど、この先都合が悪くなりそうですので」
「まあ相談してみようか。今晩でも、人を集めて話をするか」
夕方になり、ワイワイと村の人たちが集まる。
「おお、佐藤君すまないね」
声をかけてきたのは、電気屋の松下さん。
「簡単に電気と言ったが、難しそうかな?」
「そうですね、発電そのものができても、電圧が分からないんです」
「電圧が分からない?」
話を聞いても、不思議そうにしている。
「どうやって測ります?」
「そりゃあ、電圧計で……あっ」
「そうなんですよ。その計測ができないんです。それ以外でも、この村に基準が何も決まっていないことに気が付いてしまって、今晩の集まりとなったんですよ」
「基準か。……重要なんだが。この村で、普段の生活では困っていなかったよな」
「現物合わせで、大体終わらせていましたからね」
二人とも思い返して、思い当たるものが多い。
「これから先で修理とかになると、また計測から始まるんですよ。部品とかも全部」
俺がそういうと、分かったようだ。
「規格は重要だな」
納得したようだ。
村の中では、ちょうど夕飯と言うこともあって、ストックしてある獲物や野菜をバーベキューし始める。
それを肴に、宴会が始まった。
皆が集まる頃には、すでに酔っ払いが出始めた。
それを見た村長。
「こりゃもう宣言だけじゃな。基準をつくるのは、物を作る者同士が集まって決めろ」
それを聞いて、俺も松下さんも頷く。
「それでいいなら。そうしましょうか」
「おおい。もうすっかり出来上がっとるようじゃが、今日はみんなに、多数決を取りたい」
一応、場が鎮まる。
「この村には、長さも重さも基準がない。じゃから、これを決めようと思う。基本は物を作る者たちが決めてくれるそうだが。いいか」
「村長。いいかい」
村人が手を上げる。
「なんだ、葉狩さん」
「みんな自分たちが習った基準から、あまり外れるとなじめないし理解もしにくくなるだろう。なるべくその辺りを考慮してもらいたい」
みんなが、うんうんと頷く。
「えーじゃあ。自分の名前を単位になんていうのは、だめなの?」
「何の単位だ?」
「胸の大きさ?」
「いや体重だろう」
「何よそれ!!」
「そんなことになったら、変わっちゃいけないから。それを合わせる秤と重りが要るぞ」
「じゃあ。それを基準にすりゃ良いじゃないか」
「そうだな」
「はっはっは」
酔っ払いで、すでにおかしくなっている。
実は最近。事あるごとに宴会を開いている。
昼間は海や山と、別々にみんな働いているため。交流の催し(もよおし)が必要だと村人から提案があったためだ。ぽつぽつとカップルもできている。
まあそれで、有志による基準原器作成が、はじまることになった。
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