第38話 第一回炊飯技術競技会 その2

「おいしい。しかし、よかったわ。こっちへ来てすぐに。村が見つかるなんて」

 もぎゅもぎゅ、食べているのは、暮田(ぐれた)中学高。2年3組の担任。仲間踏み絵ではなく、中村芙美恵(28歳)。

「でも先生。今日は、祭りらしくて、金が要らないそうですけれど。明日から困りますよね」


「いえ。村長さんが言うには、共同体として、労働が対価だって言っていたから。働いて返すのが、基本みたいですよ。ただ。村の人に、危害を加える気なら。即断らしいですから、気を付けましょう」


「先生。即断て何ぃ?」

「紗莉(さり)さん。即断というのは、その場で決めるという意味ですが」

 先生が、紗莉に近づき。小声で、「法律も何もありませんから。いきなりリンチから、死刑なんて言うことも。あり得ます」

 と、つぶやく。


「わかったけど。名前で呼ばないでよね」

「そうだったわね」

 ふん。と、いう感じで、先生である、芙美恵をにらみつける。


 そんな折。ご飯を炊いている釜の蓋を、さっき、村長と来ていた人が、こそっと開けようとした。

 次の瞬間。手首に長い串が刺さって、手首を貫通している。

 どこから串が来たのか、全くみんなにはわからなかった。

 その脇で、ご飯を炊いていた男の子が、平然と謝りながら。串を引き抜く。


 その後。魔法だろうか? なにかつぶやくと、少し回りが明るくなり。傷が治ったようだ。


「魔法が、あるんだ」

 宅間紫衣瑠(しえる)がつぶやく。

「何か、すごいものを、観ちゃったわ」

 芙美恵がぼそっと言う。

 口に、握りこぶしあてて、驚いているようだ。


 そして、その他。今回来た連中も、固まってしまう。

「串で手の平を貫通させて、やあごめん。位で、すんじゃったわよ」

「ああ。マジで、刺さっていちゃな」

 噛んだのは、村田信二。

 金髪君である。


「ああ」

 山村誠一も、返事にならない返事をする。

 目は、普人たちから、離れない。


 この連中。中学生だが、実は、どちらかと言えば、やんちゃな子たちだった。


 だが。さっき先生が、小声で言った言葉が。

 嘘ではないと、思えるようなものを目の当たりにした。


 恰好は、いたって普通で。

 イメージが違うが、ここはきっと。世紀末な世界なんだと、心に刻んだ。

 きっと周りの連中。頭の中が、ヒャッハーに違いない。


 運転手の高瀬さんは、事故を起こし。

 自分を除き。6人も殺してしまったことを、後悔していた。

 若くなって、こちらで生きているが。

 それは結果であり。もう、向こうの世界には戻れない。


 その責任をどうしよう? なんて言うことを、考えていたが、場所が変われば、常識は変わるんだと。少し心が軽くなった。


 一人。

 本気で怖がっていたのは、バスガイドの川上さん。


 もともと、今回のガイドだって。先輩が担当する予定だったのに。

 学校の名前を聞いて、私に振ってきた仕事だ。

「中学生だから。大丈夫よ」

 そう言われて、業務についたが。

 仕事開始から、おねーさん何歳? スリーサイズは? 彼氏いるの? 週に何回? まるで、高校生のようなノリだった。


 それでも何とか、プロとして仕事を続け。

 歌などを歌い。何とか盛り上げていると、高速で、右車線を走っていたはずの、カーキャリアが、突然左前輪がバーストして、こっちのバス右前に、かぶせる形で近づいてきた。


 運転手の高瀬さんが、必死に逃げるが。間に合わず。パーキングへの分岐に立つ。クッションドラムを踏みつぶして、その奥にある。ガードレールに突き刺さった。


 すると、ガードレールの端が、なぜか跳ね上がり。

 バスの室内へと侵入してきた。

 この7人は、ガードレールに押しつぶされて、死んでしまった。


 次の瞬間。

 真っ白な雲の上で、「7人か、まあいいわ。行って」と誰かに言われ。

 再び気が付くと、きれいに整備された公園? 花壇のような所で、目が覚めた。

 自分以外は、中学生かと思ったが、私を含め。服がどう見ても、制服とは違う。

 そんな人間が3人。

 体が若返っているが、なぜか服がぴったりだ。


「なんだよ。此処」

「さっき、ガードレールが、腹に刺さって」

 銘々が、騒いでいたが。少しして落ち着く。するとすぐに。

「おねーさんガイドさんじゃん。若くなると、かわいいね」

「おれ、体がでかくなってる」

「胸が育った。ラッキー」


 皆が騒ぎ始める。

 それでも、小さくなった先生が仕切る。

「とりあえずここから出ましょう」


 そう言われて、その言葉に従い。

 整備された道を、村の方へ、矢印に従って進んでいく。

 整備された道や、線路があって。それが高架と言うことは、そこそこの文明のはず。

 いきなり。殺されることは無いわよね。びくびくしながら歩いていると。

 何処からともなく。おいしそうな匂いが、漂ってきた。


 そして、村へただりつくと、お祭りのようで、皆がおいしそうにバーベキューをしている。それを見ていると、ひとりの若い子が、近づいて来て、此処の村長だという。

 よく見れば、みんな若い。


「ちょっと、待ってくれ」

 そう言い残し。ご飯を炊いている釜? の所へ行って、相談している。


 すぐに戻ってきて、問われる。

「代表はだれじゃ?」

 そう聞かれ、先生を置いて、祭りに混ざった。


 人々は優しくて、ありがたかった。

 その後。先生も混ざって来て、食べていると。

「ぐわー」

 という声が聞こえ。

 私が振り向くと、手の平に串が刺さった人が居て、もう一人が謝っている。でも、すごく軽い感じだった。

 串を引き抜き、魔法だろうか? 少し光ると、けがは治っていた。


 ただその後に、先生に言われた言葉が怖かった。

 この人々の、中身は未開の地の住民なのかしら? 襲われたりしないよね。

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