第12話 ゴブリンさん、あなたは大変なものを盗まれました

 しばらく。

 追いかける距離をかえながら、ゴブリンを追いかける。


「結構。行動範囲が、広いのですね」

 山中さんに、声をかける。


「ああ。俺も知らなかった。奴らを追いかけるなんて、したことがなかったからな」


 走っていると、ぽっかりと口を開けた谷があり。

 そこに、ゴブリンは飛び降りてしまった。

「しまった」

 誰かが言った。


 崖のへりにたどり着き。そっとのぞき込む3人。

 俺は違うところを見ていた。

「よし、あそこの穴に入っていった。行くぞ」


 遅れてきた、川瀬さんを待って。

 俺もがけ下に降りる。

 降りる途中で確認して、納得する。

「川瀬さん。この崖すべて、赤鉄鉱じゃないですか? あの上からは別の堆積物のようですが?」

「この黒い? 褐色とかがそうなの? あまり詳しくないから、わからないわね」

「帰りに、少し持って帰りましょう」


 穴に近づくと、山中さんが人差し指を口の前に立てる。


 覗くと、ゴブリンが壁に向かって手を突き出し。

 何かを願っている。

 すると、棒状のものが伸びてきて、ゴブリンが手を引くと、それに合わせて引き出される感じ。

 手から遠くなるにつれ、細く尖って来た。

 あの形は、意識的な物じゃなく。仕方が無く、あの形になるんだ。


 みんなは、顔を見合わせる。


 そして頑張ったゴブリンさんは、また針を取られる。

 せっかくなので、休んでもらった。永遠に。ひどい話だ。


 出来上がった針を見たり、藤川さんが壁に向かって、うなったりしていると、崖の方が騒がしくなった。

 どうやら、もう一つのグループも追いかけてきたようで、本当にゴブリンたちが追い込まれてきていた。

「あれは、どうなんでしょうか?」


「まあ。ここまで来たのだから、良いのかね」

 呆れたように、山中さんがため息をつく。

「一応。その辺りに隠れようか」

 俺たちは、適当に散らばって、岩陰に隠れた。


 背中に、むにゅとした感触がする。

「なんで、そんなところに居るんですか? 川瀬さん」

「うん? 別にいいじゃない。うり」

 余計に、胸を押し付けてくる。


「ちょっと」

「それじゃあ。こっちはどう」

 ぐにぐにともまれて、思わず声が出る。

「うっ。ダメですって」

「なんで~。良いじゃない。かわいいよ」


 かわいいって、あれのことなら、落ち込むんですが……。

「そっちが、その気なら」

 体位を入れ替え、川瀬さんを岩に押し付ける。

 胸と、下側を一気に攻める。

 川瀬さんは、もうにゅるにゅるだった。


 抑え込んで、ぐにぐにして、きっちりいかせる。

 脱力して、崩れ落ちたが、少しして立ち上がると、

「若いのに、ひどい子」

 そう言って、泣きまねをする川瀬さん。


「突然、変なことをしだしたのは、そっちでしょう」

 と言うと、

「生理前は、むらむらするのよ」

 それだけ言って、そっぽを向いた。


「はい。様子を見に行きますよ」

 川瀬さんの背中を押す。

「はーい」


 見に行くと、ゴブリン君は素直に針を作ったらしく、皆がやはりあれは魔法だなと、納得をしたようだ。


 集合するのに遅れた理由として、手に持った石を見せる。

「みなさん。これ鉄鉱石です。多分周りの崖。茶褐色の部分が全部そうですね」

「おお。やっぱりそうなのか。じゃあ。炉があれば製鉄ができるな」


 俺はうなずいて、

「あとは燃料ですね」

 と答える。


「薪じゃないのか?」

「温度が最低で1200度くらいは欲しいので、コークスがいいんです」

「コークス?」

「えーと。簡単に言うと、石炭の炭です」


「石炭て、何処にあるんだ?」

「地面の下ですが、地殻変動で露出。つまり路頭したところがあれば、簡単なんですけどね」

「昔は沼か湿原で、そこにできた泥炭地の上に、土が堆積して石化したものが石炭です」

「泥炭地というのはあれだよな、水の底なんかで温度が低くて草がきれいに腐らずに堆積したやつ」

「そうです。それです」


「石炭ていうからには黒いんだろう?」

「そうですね。僕も、写真でしか。見たことはありませんけど」


「しばらくは、みんな崖を見かけたら、にらめっこだな」

 笑いが起こる。


「後は、レンガも問題ですね」

「ああ。耐火煉瓦か」

「アルミナとか、ろう石とか。色々必要ですが、色々なものを入れて、焼結して試しましょう」

「後は、基礎だろ。アイドルが、無人島で作っていたのを、見たぜ」

「そうそう。あれです。僕もみました」


「それと魔法だな。どっちが早いかだな。ゴブリンが使っていた時。別に定番の呪文も魔方陣も使っていなかったぞ」

「なら何か、方法があるはずですよね」

「魔方陣じゃなくてよかったですね。魔方陣なら、本気でゴブリンに教えてもらわないとだめですよね」

 どっと、みんなが笑う。


「あるのが分かったから。特訓ですね。家へ帰って、超能力者よろしく。ゴブリンの針を曲げましょう」

「はっはっは。そうだな」

「僕はちょっと、鉄鋼石を持って帰って、ゴブリンの真似をします」


「製錬と変形を同時にか、難しそうだな」

「ですが。お手本を見ましたからね。ゴブリンに負けないように頑張ります」

「そうだな」



 村に帰って解散をしたが、一時間もしない間に、川瀬さんがやって来た。

 仲間に入れてと、みんなに言っていた。


 川瀬さんは、こっちへ来て丸2年。

 1年は村の手伝い後、面白そうだから、探査について行ったらしい。

 今年は、村にいた方が面白そうだから、よろしくね。とのことだ。


 当然。

 どぶろくを飲んで、お話合いをしたらしく、川瀬さんだけではなく。

 広瀬さんもルーティンに入ったようだ。どうしてこうなった?

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