第11話 ゴブリンさん教えてください

 静まった場に、俺は声をかける。


「すみません。俺は、ここに来たばかりの新参者ですが。とりあえず、道を作りませんか?」

「道と簡単に言うが、重機がないし。簡単ではない」


「でも今。海産物も塩も、背負ってきているのですよね?」

「そうだ」

「せめて、荷車が使える幅にでもすれば。ずいぶんと楽になると思います」


「だが。道具もないぞ」

 その意見は、もっともだ。


 俺はここへ来て、ずっと思っていた疑問を、聞いてみる。

「ゴブリンたちは、どうやってこの針を作っているのでしょうか? 誰か見たことがありますか?」

 みんなが首を振る。

 そして、それを切っ掛けに、ざわざわと話が広がっていく。


「言われてみればそうだ。あいつ等が、炉とか持っているとかいうのなら。ゴブリンは、知的生命体で。俺たちが、侵略者じゃないか?」


 様子を見ていた、村長が口を開く。

「道を作るというところから、えらく話が展開してきたが。佐藤君。どうしてそんな話を?」


「皆さん。あっしまった。聞いていない人もいるのでした。えーと僕たちがここに来るときに説明されたんです。この世界には、魔法があるから使いなさいと。ゴブリンの持つ針。これは、魔法で作られたものじゃないかと、思うんです」


 その瞬間。騒めきが広がる。

「いや待ってくれ。俺たちもそれを聞いて、幾度か練習したんだが。出なかった」

「うん。うん」と、賛同の声が、広がる。


「でも。習ったわけでもなく。言わば我流でしょう? この中に、イギリスの魔法学校出身者でもいれば。話は別ですが。使えないのは、うーん。……この世界に沿ったと言うか、この世界の決まりに従い。使う必要があるとかで、誰も、それを知らないと言うことですよね」


「そりゃあ。そうだ」

「ここに来てから。ずっと魔法について、試行錯誤した方はいらっしゃいます?」


 みんなが、周りを見回すが、誰もいないようだ。


「それで、話が長くなったのですが。地球だと、鉄鉱石は大量にあった。それを、精製して精錬。さらに加工工作するには、炉が必要となります。今。唯一。鉄製品を扱っているのはゴブリン。さっき言ったように、炉を持った知的生命体でなければ、魔法を使っている。僕は、そう思ったわけです。だったら。使っているところを、見せてもらおうかと思ったのですよ。話が通じれば、師事してもいいんですけどね」


 おれは首を傾け、外国人のする困った感じで、両手を肩の横で広げる。


 幾人かが、食いついてくれたようで、話しかけてくる

「問題は、どうやって見せてもらうかだ」

「そうだな。話が通じないのは、幾度も試した。おかげで、一番最初の森で、一人仲間を失った」

「そうだ。アイデアは良いが、どうする気だ?」


「えーと。さっき言ったように、鉄鉱石が必要だと思うんです。そのため、採掘場所への案内と、魔法のご教授をお願いするため。板切れをもって、片っ端からゴブリンの針を、取り上げようかと思うんです。最悪。これで炉を作れば、鍛冶もできますし」

「ひでえな。ゴブリンからカツアゲかよ。挙句。採掘場に案内させて、掘り方も勝手に習うとは、いやあ。極悪非道だが、すごい」


「客観的に聞くと、極悪ですね。思いついたときには、これだと、思ったんですけどね」

「いや。良いんじゃないか? ゴブリンから、鉄は取り上げられるし。うまくいけば採掘場の発見。精製。これは、こちらで炉を作ればいい話だし。うまくいけば、さらに魔法の使い方も見られるか」


「なんだよ。佐藤君が言ったことを、繰り返しただけじゃないか」

「良いじゃないか、別に。俺は乗るぜ。魔法が使えるなら、使ってみたい」

 

 山崎さんが出て行って、沈んでいた場が、盛り上がって来た。

 ちなみに、この世界で作られているお酒は、まだどぶろくだが。かなり甘い。

 だが、この米麹を作るまでは、米を蒸しては、カビさせて。これをひたすら繰り返し。使えるカビをはやすのに、苦労したと言っていた。

 その工程。途中で、節を作成するときの、乾燥用カビも発見した言っていた。


 その辺りの、管理と醸造をしているのは、元は農学部の先生だった、安本さんだ。

 もっと、力の強い酵母を見つければ、切れのある酒が醸せると言っていた。



 その日の夜。長瀬さんがやって来た。

 お茶と、あられを出してみた。

 長瀬さんは、多少酔っているようだ。

 部屋に来ると、いきなり脱ぎ始めた。

 隆君は、どぶろくを飲んでしまい。すこっと、寝てしまったようだ。


「どぶろくを飲んでいたら、欲しくなっちゃったの」

 と言って、いきなり咥えてきた。

「下ネタですか?」

 おれは、笑う。

「だめ?」

「いいですよ。俺も、味あわせてもらいます」

「あん……」



 翌朝。極悪ゴブリンカツアゲ計画が、発動をした。


 あまり多くてもダメなので、5人2チームで、探索を行う。

 始まりの森を、確認することも。

 予定に入っている。


 まっすぐ、始まりの森に行くグループと、迂回して森を突っ切るグループに分かれた。


 計画時には、板と俺が言ったが。こん棒でも一緒だろうと言うことで、装備はこん棒となった。


 始まりの森に向かう道を、通り過ぎ草地をなぎ倒しながら進んでいく。

「この辺り、たまに蛇が出るから、気を付けてね」

 川瀬さんが、言ってくる。


 川瀬さんは、探査帰りの一人だ。

 山崎さんは、飲んで寝ているらしく。

 探査の目的について説明すると、

「面白いこと考えるわね。暇だからついて行く」

 と、言って、ついてきた。


「そろそろいいだろう。中に入るぞ」

 狩りを専門にしている、山中さんが教えてくれる。


 指示に従い。

 森に入る。

 2~3mの距離を取り、初めての場所を目指す。


 山中さんが指示を出したのだろう。

 皆が、順に右手を上げる。それを確認すると、体勢を低くする。

 やはりゴブリンは、3グループが基本なのだろうか? 

 こん棒が2で、針が1のセットだ。


 山中さんが飛び出すと、それに合わせるように。川瀬さんも回り込んで、向かって左端のゴブリンの首。後ろ側を殴る。

 その間に、山中さんが、右端のこん棒ゴブリンを殴り倒す。


 俺は、その後ろでおろおろしていた、針ゴブリンの針を殴り、落としたところを素早く回収する。


 後ろから来た三城さんが、手を抜いて、いや、加減をしてゴブリンを蹴り飛ばす。


 離れたところで潜んでいた、藤川さんが、逃げたゴブリンを追いかけ始める。


 よし。手順通り順調。

 俺たちは、藤川さんを追いかける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る