第8話 なれない生活の始まり

 ご飯を炊き。

 蒸らしの後、しゃもじでかき混ぜる。


 日本で、定期的に炊いていた、土鍋ご飯のおかげで比較的うまくできた。

 火加減の方法を、マスターすれば、大丈夫だろう。


 味噌と醤油は作られている。

 出汁は、川魚や川エビの燻製を臼で引いたものや、カツオではないが、サバやアジの節。

 それに、乾燥わかめや、昆布も頂いており。

 問題ない。


 このあたりの、魚介類や塩は、川を下った所に海があり。仲間がいて、作っているそうだ。


 豆腐は、必要なら作れと。大豆をもらった。

 昨夜から水につけてあるが、朝ごはんには間に合わない。

 当然、海水から塩を作るので、にがりも小さな壷に一つ。頂いている。


 生活として、灰もきれいに『ふるい』を通したものを、保存するように言われている。こんにゃくを作るときに必要だし、灰汁はアルカリだから、使い道はいろいろある。


 それはさておき。

 簡単に高野豆腐と人参。玉ねぎ、乾燥シイタケを戻したものとわかめで、味噌汁という名の、煮物もどきを作ってみた。

 皆の口に、合うかは知らん。


 だが、一気に使いすぎたと反省もした。

 まだ、ここの普通が分からないから、自重しなければいけない。


 それと、たった一晩だが、暗いトイレの怖さも実感した。

 床に穴が開いているだけだから、はまると色々な意味で恐怖。なんとかしよう。


 しばらく待ったが、皆が起きてこない。

 瀬尾さんに、後をお願いして外へ出る。


 村長さんの所へ話をしに行く。

 まだ、ろうそくはなく。

 椿油や大根の種。つまり菜種油を、燭台の燃料に使っているようだ。

「漆や櫨(はぜ)の木は、近くにありませんか?」

 聞いてみたが、見たことが無くて。判断できる人がいないとの事だった。


 赤く紅葉する木はあると言うので、その情報をもとに探しに行く。

 もちろん、ゴブリンの棍棒を装備。

 持ち手は昨日、一生懸命洗った。


 山の植生は、驚くほど日本に近く。

 タラノキやウドが生えていた。


 とげとげしているから、すぐに分かる。

 ドングリや椎もあり。川に近づくと、フキやミョウガが群生していた。

 川に降りてから、ふと見上げると、田んぼが並んでいた。


 先に来た人たちの、苦労の結晶。

 その景色を見ていると、なぜか、涙が出た。


 川に出て、瀬の部分を渡る。

 対岸を、また昇って行く。

 道らしい道はなく、かなりつらい。


 法面を、低木やクマイザサを分け入りながら。

 何か、いいものは生えてはいないかと、きょろきょろする。

 本当は笹の中などは、ダニなどがいるため遠慮したいが。


 うん? あの木に取りついた、ちょっと細長のハート形の葉っぱ。

 山芋だ。

 まだ、むかごもなくて、この葉っぱの色。

 今はまだ、夏前だったのか。


 そういえば、さっき。

 タラの芽やウドの新芽を見たのに。

 スルーしてしまった。

 可食部部分を帰りに採って帰ろう。


 足元には、ノビルにヨモギとかもある。

 あれは、いたどりだ。

 ひょっとすると、ゼンマイやワラビも。

 ……いや時期的に、ちょっと遅いか。


 うん。

 あの白い花は、エゴノキかな? 後で集めよう。

 だめだ。

 絶対一度で、何とかなるわけがない。

 みんなに教えよう。


 目的地に着くと、枝の先端に一枚の葉。

 そこから対で葉が並ぶ。

 そして軸が赤く、毛が生えているのが漆やハゼノキの特徴だ。

 あらっ? この変な葉っぱはヌルデか? ハゼノキよりも、漆に近い葉っぱで丸いが、葉軸の部分にも翼(よく)と呼ばれる葉が付いている。


 まあいい。

 当初の目的通り、実を探して集める。

 さすがに、どのくらいのロウが取れるのか。さすがにわからないので、拾えるだけ拾い。

 帰り道で泣いた。何度か、捨てようと思った。

 だがこれも。

 夜のトイレに、はまらないためには、必要なものだ。


 戻ってきて、実を石を使って砕く。

 その後、蒸しはじめる。

 その間に、竹串に和紙を巻き付ける。

 本来は、イグサの芯が必要だけど、ないから省こう。


 太いと芯切りが必要になるため。

 細目に作った。

 これも、いくつか試して、最適なものを探そう。


 粘土に、ゴブリンこん棒の持ち手を突き刺し、ろうそく用の型を作って、真ん中に一本竹串を刺して、乾かしていく。


 蒸した実を、熱いうちに平型の器の上で絞る。

 絞る絞る絞る……。いや無理。

 もう一度、せいろに放り込んで、その間に考える。


 実の入った袋の両端を、それぞれ棒で挟み。

 杭を2本立てて、片側の棒をそれに引っ掛ける。

 上側の棒は長くしてあり。それを持って、杭の周りをぐるぐる回る。


 袋の耐久性が低く。ミシミシと言い出したので、あきらめる。

 今度。圧搾用の道具を作ろう。


 それでも、結構なロウが絞れた。

 手早く、竹串に巻いた芯を漬けて固める。


 型に刺していた竹串と入れ替え、手早くロウを注いでいく。


 燃焼時間は、分からないので、底面3cm×高さ20cm(上部は5cmくらい)の物と、ぐりぐりして倍くらいの太さの物を作ってみた。

 円錐台の体積は、上面の半径を2乗、底面の半径も2乗して、それに、上面の半径掛ける底面の半径。それを足して、さらに3.14を掛けて、高さを掛ける。それを3で割ると、1026立方センチメートル。


 パラフィンだと、比重がたしか0.8ちょっとくらいだったよな? 木蝋は違うのか? まあいい。800gで、どれくらいの時間燃えるのかが、重要だ。


 ライターもないから、簡単につけて消してができないからな。

 もったいないが、長時間の燃焼が重要だ。


 結構実を取ってきたと思ったが、太いのが2本と細いのが3本だった。

 残りの搾りかす、煮込んで冷ませばロウがまだとれるかな。やってみよう。


 何事も試行錯誤が重要だ。うん。

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