第5話 村発見

 それからも、道を歩いていると、森を抜けて少し広い道にでた。

 どっちへ進もうかと確認をすると、木の櫓が見えた。


「右手に行くと、あれ櫓ですかね?」


 広瀬さんが、

「それっぽいわね。きっと村だわ」

 そう言って、駆けだそうとした。


「ちょっと待ってください。好意的に迎えてくれるか。判断できないし。何かルールでもあって、入場料とか必要だと、困ったことになりますよ」


「あちゃー。入場料か。……ありそうな話よね」

 広瀬さんが、賛同をしてくれた。


「佐藤君て高校生の割には、しっかりしているよね」

 広瀬さんが言うと、長瀬さんも瀬尾さんも頷いてくれたが、

「そんなことはありませんよ。ラノベとか、ざっと読んだことがあるので」


「でも一番落ち着いている感じがするし、頼りにするわよ」

 長瀬さんが、言ってくれた。

「ありがとうございます」

 僕は、褒められ慣れていないので、お礼しか言えなかった。。


 たまには、素直に頼られるのも。気持ちが良いなと感じてしまった。

「少し先行して、俺が行きます。皆さんは、いつでも逃げられる用意は、しておいてください」

 皆が頷く。


 一人先行して、皆から50mほど距離を開けた。


 右手の棍棒を、匂いも気にせず握りこむ。

 尖った金属棒は、背中側のベルトに差し込んで、すぐに抜けるように、右に倒してある。

 

 近くに行くと、低い壁がぐるりと囲ってある。

 盗賊のアジト? いくら何でも、こんな道の脇に?

 堂々と作られては、いないよなと思いながら。

 ここ自体が辺鄙な場所なら、そんなことがあっても分からない。そう思って、気を引き締める。

 そっと、近づいていく。


 入口には、ゲートのようなものがあり、人が一人立っていた。

 ゲートは看板で、……『はじまりのむら』と書かれていた??


「はあぁっ? 始まりの村?」

 驚いていると、立っていた人が、

「始まりの村へようこそ」

 とだけ言って。


 また正面を向いてしまった……。

 NPCなのか?

 覗き込むと、塀に囲まれた中には、家が結構な数。建っていた。


 振り返り、皆を手招きをする。


 駆け足で、やってきて、

「どんな感じ?」

 広瀬さんが聞いてきたが、黙って看板を指さす。

「「「はじまりのむら?」」」


 隆君以外が、口をそろえて読み上げた。


 その瞬間。

 立っていた門番さんが、噴出した。

「はぁっはっはっは。いやごめん。みんなは、今日来たのか?」

 と、聞いてきた。NPCじゃなかったのか。


「そうです、変な女神に飛ばされて。森の中に居ました」

「あいつ、どんどん歯止めが利かなくなってきているな。早く地球の神様にでもばれて、天罰でも食らわないかな」

「そうですね。と言うことは、あなたも日本人ですか?」


「ああこっちへ来て。まだ1年くらいだ。長尾義一だ。よろしくね。今は門番兼、NPCごっこをしていた」

「俺は、佐藤普人です」

「長瀬です。この子は隆です」

「私は広瀬です」

「瀬尾です。よろしくお願いします」


「長尾さん。この村はもしかして、日本から来た人ばかりなんですか?」

「そう。年に数人。始まりの森に、人が送り込まれてくるんだよ。不定期だから、森で常時見張っているわけにはいかないけれど、定期的に見に行っているから、道ができている。モンスターもいないはずだが、いたのか? よく倒せたな」


 俺が持っている棍棒を見て、判断したのだろう。

「3匹だけなので、何とか倒せました」

「怪我はないか?」

「ええ。ありません」


「ならいいが、あいつら汚いから、感染症をもらうことがあるんだ。まあポーションがあるから、それで一発で治るけどな。熱でも出たら言ってくれ。薬屋さんに案内するよ」

「はい、お願いします」

「それと、棍棒を触ったのなら、後でよく手を洗わないと、匂いが取れなくなるぞ。 すると、飯がまずくなる」

「それは、嫌ですね」


「大体ここに2~3年いて、手に職が付いたら、みんな町があるかとか探査に出ていくから、空き家がある。自由に使ってくれて構わない。慣れるまで、最初しばらくは共同生活をした方がいい。ガスも電気もないから、まずはそこからお勉強だな」


 共同と言う言葉に瀬尾さんが反応した。

「共同ですか?」

「ああ、まるで生活が江戸時代だからね。一人だと大変だよ。まあ訓練合宿の感じで生活をして。だめなら、さっきも言った通り。家はあるから。空いているのを使えばいい。表札を出せば、その人の家ということになるから」

「表札ですか?」

「ああ適当な木に、自分で彫刻だな」

「……そうですか」


 なんだか、瀬尾さんが落ち込んでいるな。

 集団生活は、人によっては辛いからな。

 理解できる。


「5人なら、少し奥まったところだが、まっすぐ行って右奥に、少し大きめの家がある。家を確認したら、村の一番奥に、村長さんの家があるから。顔を出せば、できそうな仕事を割り振ってくれて、最初の内は食い物も分けてくれる。井戸は村の真ん中。釣瓶だから、ちょっと大変かもな」


「まんま。江戸時代ですね」

「そうなんだよ、最初に魔法があるって、あのくそ野郎が言っていたけど。未だに使える人間が、誰もいないんだ」


「そう。なんですか?」

「ああ。見たこともない。俺も来た当時、ずいぶんファイヤーとかウォーターとか叫んだよ」

 長尾さんが、遠い目をして、そうつぶやいた。


「ありがとうございました。家を見て、村長さんのお宅に伺ってみます」

「おう。最初は大変だけど、すぐ慣れるよ」


 俺たちはお辞儀をして、『はじまりのむら』に、足を踏み入れた。

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